【インボイス制度】免税事業者は消費税を請求できないのかを解説します!
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令和5年10月1日から消費税に関する新たな仕組みであるインボイス制度が開始されました。この制度により、消費税の仕入額控除の対象となるのは、原則として適格請求書(インボイス)を保管している取引に限られます。
それではインボイス制度に登録していない免税事業者は消費税を請求できないのでしょうか。インボイス制度の仕組みを見るとそのように思う免税事業者も多いはずです。しかし実際には免税事業者が消費税分を取引先に請求することはできます。国税庁の見解では適正な転嫁で問題ないとされています。
参照:国税庁 お問い合わせの多いご質問(問④)
消費税には免税要件があり、課税売上高が一定以下の場合は消費税の納付義務がありません。しかしインボイスを発行できるのは請求書発行事業者として登録している事業者に限られ、請求書発行事業者登録ができるのは課税事業者のみです。すなわち免税事業者はインボイスを発行できません。
免税事業者も消費税の上乗せ請求が可能であり、実際に消費税を請求する免税事業者は多くいます。しかしインボイス制度の開始後、買い手側は免税事業者との取引を、消費税の仕入税額控除に含めることができなくなります。そのため、免税事業者の消費税請求について、これまでとは異なる対応が求められる可能性が高いです。
今回はインボイス制度について、免税事業者が受ける影響を中心に解説します。
※今回紹介する内容は2023年12月時点の情報に基づきます。今後の動きや税制改正などにより変更が生じる可能性がある旨にご注意ください。
目次[非表示]
- 1.インボイス制度とは
- 1.1.インボイス制度の概要
- 1.2.インボイス発行のためには課税事業者になる必要がある
- 2.インボイス制度による影響 買い手・課税事業者の売り手編
- 2.1.買い手側が受ける影響
- 2.2.すでに課税事業者の売り手側が受ける影響
- 3.インボイス制度による影響 免税事業者の売り手編
- 3.1.消費税分の値下げを要求される
- 3.2.取引条件の見直しを要求される
- 3.3.新規の案件・取引先を獲得しにくくなるケースも有り得る
- 4.インボイス制度の開始後も影響を受けにくい免税事業者とは
- 4.1.取引先が免税事業者である
- 4.2.取引先が簡易課税事業者である
- 4.3.買い手が一般の消費者である
- 5.インボイス制度開始後 免税事業者は消費税分の請求ができるのか
- 6.インボイス制度に向けて免税事業者がとるべき対策
- 6.1.インボイス制度・消費税の仕組みについて理解を深める
- 6.2.取引先としっかり交渉する
- 6.3.相談できる窓口や専門家について把握する
- 7.インボイスに向けて課税事業者になる選択肢も有
- 7.1.課税事業者になるための手続き
- 7.2.免税事業者が課税事業者になるメリット・デメリット
- 7.3.インボイス制度の負担軽減措置
- 7.4.消費税の申告・納付の概要
- 8.まとめ
- 9.経理業務でお悩みのときは、グランサーズにご相談ください!
インボイス制度とは
まずはインボイス制度に関する基本事項を紹介します。
インボイス制度の概要
インボイス制度とは、正確な経理処理や消費税額に関する責任の所在を明確にするために導入される制度です。インボイス制度の開始後は、消費税の仕入税額控除の対象となるのが適格請求書(インボイス)を保管している取引のみとなります。
適格請求書とは、以下の項目すべてを記載した請求書です。
- 請求者発行者の名称
- 請求書の交付を受ける事業者の名称
- 取引の年月日
- 取引内容
- 適用税率ごとに区分した上での対価の合計額
- 請求書発行者の登録番号(適格請求書発行事業者の登録番号)
- 適用税率
- 適用税率ごとに区分した上での消費税合計額
下3つの項目が、現行の請求書にはみられない特徴的な要素といえます。
現在、日本で適用されている消費税率には、8%と10%の2つが存在します。現行の請求書ではどの取引にどの税率が適用されているのか不明瞭なことも多く、正しい会計処理や消費税の計算および申告ができない原因となるケースがありました。
適格請求書には、取引ごとの適用税率を明記する必要があります。結果として、正確な経理処理を可能にする・消費税額に関する責任の所在を明確にする効果が期待できます。
前述したように、インボイス制度の開始後は、消費税の仕入税額控除の対象となるのが適格請求書を保管している取引のみとなる予定です。そして適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者として登録している事業者のみとなります。
適格請求書発行事業者が発行した請求書であると証明するために、請求書発行者の登録番号の明記も義務付けられています。
インボイス発行のためには課税事業者になる必要がある
前項で紹介したように、インボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者として登録している事業者のみです。そして適格請求書発行事業者の登録ができるのは、消費税の課税事業者のみとなります。
すなわち免税事業者はインボイスの発行ができません。インボイスを発行するためには、課税事業者になる必要があります。
インボイス制度の開始後、消費税の仕入税額控除の対象として計算に含められるのは、インボイスを保管している取引のみとなります。すなわち免税事業者が発行した請求書に関する取引について、買い手側は消費税の仕入税額控除の対象に含めることができません。結果として、買い手側の消費税の負担が大きくなってしまうのです。
このような理由から、インボイス制度の開始後は適格請求書発行事業者との取引が好まれるようになると考えられます。
前述したように、適格請求書発行事業者として登録できるのは消費税の課税事業者のみです。結果として、消費税の免税要件を満たしていても、取引継続や取引先との良好な関係維持のために適格請求書発行事業者の登録を検討する事業者が多くみられます。
インボイス制度による影響 買い手・課税事業者の売り手編
すでに紹介したように、インボイス制度は消費税の仕入税額控除の方式を大きく変える制度です。インボイス制度の開始以降は消費税の仕入税額控除の対象となるのが、原則として適格請求書を保管している取引のみに限定されます。
インボイス制度は買い手・売り手の双方に大きな影響を与える恐れのある制度です。まずはい手・課税事業者の売り手が、インボイス制度の開始によって受けると考えられる影響を紹介します。
買い手側が受ける影響
買い手側に生じる大きな変化のひとつが、作業量の増加および煩雑化です。
インボイス制度が開始されると、消費税の仕入税額控除の対象になるのがインボイスを保管している取引のみとなります。すなわち消費税の正しい集計や計算のためには、インボイスとそうでない請求書を分けて保管する必要があります。消費税の計算や申告書の作成手続きについても、現行制度とは異なる作業が必要です。
特にインボイス制度の開始直後は、消費税の計算・集計に関連する作業に要する時間や労力が大きくなるでしょう。
もうひとつ大きな変化として、仕入等にかかる金銭的な負担の増加が挙げられます。
売り手が消費税の免税事業者であっても、本体価格に消費税を上乗せした金額を請求されるケースがほとんどです。現行制度においては、消費税の納付額は売上にかかる消費税から仕入等にかかる消費税を引いた額であるため、実質的な負担は本体価格のみとなります。
しかしインボイス制度の開始後は、免税事業者から上乗せ請求された消費税分について、納付税額の計算時に含めることができません。すなわち買い手側は本体価格と消費税分の両方を負担することになります。
インボイス制度の開始後も免税事業者から消費税分を上乗せ請求される場合、総額そのものは変わらなくても、実質的な負担額は大きくなるのです。
すでに課税事業者の売り手側が受ける影響
インボイス制度の開始によって課税事業者の売り手が受ける影響は以下の2つです。
- 適格請求書発行事業者登録の必要性が生じる
- 請求書に記載するべき項目が増える
すでに課税事業者である売り手であっても、インボイスを発行するためには適格請求書発行事業者登録が必要となります。インボイス制度が開始となる令和5年10月1日から登録を受けるためには、令和5年9月30日までに登録申請書を提出する必要があります。
インボイスは現行の請求書の内容に加え、請求書発行者の登録番号・適用税率・適用税率ごとに区分した消費税合計額の記載が必要です。請求書の記載事項が増えるため、請求書発行の作業がやや煩雑化する可能性があります。
これまでに紹介したように、インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する制度です。すなわち、売上にかかる消費税に直接の影響はありません。
適格請求書発行事業者の登録を行い、要件を満たしたインボイスの発行さえすれば、その他の悪影響は受けないと考えられます。
インボイス制度による影響 免税事業者の売り手編
続いてはインボイス制度によって、現時点で免税事業者の売り手が受けるであろう影響を紹介します。
免税事業者の売り手が受けると考えられる影響は以下の3つです。
- 消費税分の値下げを要求される
- 取引条件の見直しを要求される
- 新規の案件・取引先を獲得しにくくなるケースも有り得る
それぞれ詳しく解説します。
消費税分の値下げを要求される
インボイス制度の開始後、免税事業者は消費税分の値下げを要求される可能性が高いと考えられます。
現状は、消費税の納付義務がない免税事業者も消費税を受け取っているケースがほとんどです。免税事業者が消費税分を上乗せ請求することに問題はありません。この仕組みはインボイス制度の開始後も変わらず、免税事業者が消費税分を受け取ること自体は可能です。
しかし実際のところ、インボイス制度の開始後は消費税分の値下げを要求される可能性が高いでしょう。
現行制度であれば、売上にかかる消費税から仕入等にかかる消費税を引いた額が、納付する消費税額となります。
たとえば、売上にかかる消費税額が100円、仕入等にかかる消費税額が70円の場合、納付税額は
100円-70円=30円です。
しかしインボイス制度の開始後は、仕入等にかかる消費税として含められるのが、インボイスを保管している取引のみとなります。
先ほどの例において、仕入等にかかる消費税額の中に、免税事業者との取引にかかる消費税額が40円分あった場合を考えます。免税事業者はインボイスを発行できないため、40円分は仕入税額控除の計算に含められません。したがって、納付税額は以下のようになります。
100円-(70円-40円)=70円
現行制度であれば、消費税分の上乗せ請求があっても売上にかかる消費税から控除できるため、実質的な負担が増えるわけではありませんでした。しかしインボイス制度の開始後は、インボイスが発行されない取引にかかる消費税はすべて自己負担となります。
買い手にとっては、取引内容は同じまま、負担する金額だけが大きくなるイメージです。そのため買い手が免税事業者に対して、消費税分の値下げを要求するケースが増えると考えられます。
取引条件の見直しを要求される
インボイス制度の開始に伴い、買い手側から取引条件の見直しを要求される可能性もあります。
これまでに解説したように、インボイス制度の開始後、買い手にとって免税事業者との取引は大きな負担になる恐れがあります。インボイス制度の開始後も消費税の上乗せ請求がされれば、取引内容・取引総額は同じでも実質的な負担は大きくなるためです。
また、消費税分の値下げが行われたとしても、インボイスではない請求書として、インボイスと分けて扱う必要が生じます。
このようにインボイス制度の開始後、免税事業者との取引が何らかの形で負担になる恐れが大きいのは事実です。結果として、取引量の減少や取引の停止を検討するケースも十分に考えられます。
ただし、買い手による一方的な取引内容の変更や取引停止といった対応は違法行為です。そのため、交渉や検討の余地なく強引な対応をとられるリスクは低いと考えられます。
いずれにせよ、買い手側から何らかの要求を受ける可能性が高いのは事実です。
新規の案件・取引先を獲得しにくくなるケースも有り得る
インボイス制度の開始後、免税事業者は新規の案件・取引先を獲得しにくくなるケースも有り得ます。
前項で紹介したように、買い手による一方的な取引内容の変更や取引停止といった対応は違法です。インボイス制度の導入によって買い手側から何らかの要求を受ける可能性はありますが、交渉や検討の余地はあり、既存取引が解消される恐れはそこまで大きくないと考えられます。
しかし、新たに契約する取引先について、適格請求書発行事業者に限定する企業が増える可能性が考えられます。免税事業者というだけで取引先の候補から外れてしまう恐れがでてくるのです。
インボイス制度は、免税事業者の新たな案件・取引先の獲得に悪影響を与える可能性があるといえます。
インボイス制度の開始後も影響を受けにくい免税事業者とは
インボイス制度の開始によって、免税事業者は大きな影響を受ける恐れがあると紹介しました。買い手側にとって、免税事業者との取引は損失になる恐れが大きく、適格請求書発行事業者との取引の方が好まれる可能性が高いためです。
しかし、すべての免税事業者が必ずしも大きな影響を受けるとは限りません。インボイス制度の開始後も影響を受けにくい免税事業者として、以下3つのパターンが挙げられます。
- 取引先が免税事業者である
- 取引先が簡易課税事業者である
- 買い手が一般の消費者である
なぜインボイス制度の開始による影響を受けにくいのか、理由を詳しく解説します。
取引先が免税事業者である
取引先が免税事業者である場合、インボイス制度の開始に伴う変化が生じる可能性は低いです。
インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する制度です。インボイス制度の開始後は仕入等にかかる消費税として計算に含められるのが、インボイスを保管している取引のみとなります。インボイスを保管していない・インボイスが発行されていない取引は、売上にかかる消費税から控除できないため、消費税の負担額が大きくなるのです。
免税事業者は文字通り消費税の納付義務がない事業者です。消費税の計算・納付が発生しないため、消費税に関する制度の影響を受けません。発行される請求書がインボイスであるか否かも関係ないといえます。
したがって、取引先が免税事業者である場合、これまでと変わらない取引ができる可能性が高いです。
ただしインボイス制度の開始に伴い、課税事業者への切り替えを行う免税事業者は少なくありません。現時点では免税事業者の取引先が課税事業者となる可能性を考慮する必要があります。
取引先が簡易課税事業者である
取引先が簡易課税事業者の場合も、影響を受けにくいと考えられます。
簡易課税の適用を受ける場合、課税売上にかかる消費税額に一定率を乗じた金額を、課税仕入れ等にかかる消費税額とみなして納付税額を計算します。消費税額に乗じる利率をみなし仕入率といい、業種ごとにみなし仕入率が定められています。
簡易課税では売上にかかる消費税に一定率を乗じた額を仕入税額とするため、仕入等にかかる消費税の実際額は関係ありません。すなわち簡易課税事業者は、受け取った請求書がインボイスか否かによる影響を受けないのです。
以上の理由から、取引先が簡易課税事業者である場合も、インボイス制度の開始による影響を受けにくいと考えられます。
なお、簡易課税で利用するみなし仕入率は以下の通りです。
- 第1種事業 卸売業:90%
- 第2種事業 小売業・農林漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業):80%
- 第3種事業 農林漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業以外)・建設業・製造業など:70%
- 第4種事業 飲食店業などその他事業:60%
- 第5種事業 運輸・通信業・金融・保険業などサービス業:50%
- 第6種事業 不動産業:40%
複数の事業を営む場合、原則として業種ごとに売上高を区分し、それぞれの業種に対応するみなし仕入率を乗じた計算が必要です。
※簡便的な計算ができるケースも有
簡易課税制度の適用を受けられるのは、以下2つの要件を満たす事業者のみです。
- 基準期間(個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下
- 簡易課税の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する
※新規開業の事業者の場合、開業した事業年度の末日が届出書の提出期限となる
基準期間の課税売上高に関する要件があるため、簡易課税事業者は事業規模がそれほど大きくないといえます。しかし売上要件を満たすからといって、必ずしも簡易課税を選択するとは限りません。簡易課税事業者であるか否か、外部からは正しく判断できません。
取引先に簡易課税事業者であるか確認するのが確実です。
買い手が一般の消費者である
買い手が一般の消費者である場合も、インボイス制度の開始による影響は受けにくいと考えられます。
一般消費者は消費税の申告義務がなく、自身の出費にかかった消費税の集計作業も必要ありません。そのため一般消費者への売上に対して、インボイスを含めた請求書を発行する必要性および意味はないといえます。
買い手が一般の消費者のみである場合、インボイス制度による影響はないといえるでしょう。
ただし買い手に一般の消費者と事業者の両方がいる場合、インボイス制度による影響を受ける可能性があります。どれほどの影響を受けるかは、一般消費者と事業者それぞれに対する売上の大きさによって変わります。事業者に対する売上の割合が大きい場合、インボイス制度によって受ける影響も大きくなるでしょう。
インボイス制度開始後 免税事業者は消費税分の請求ができるのか
これまで紹介したように、消費税の納付義務がない免税事業者も消費税込みの金額を請求するケースが多くみられます。免税事業者が消費税を上乗せして請求する行為は違反ではなく、消費税法や国税庁の通達においても禁止されていません。
インボイス制度の開始後も、免税事業者が消費税を上乗せして請求すること自体は可能です。ただしインボイス制度の導入によって、今後は消費税分の値下げを要求される可能性が高いと考えられます。
これまで紹介したように、免税事業者である売り手が消費税分を上乗せ請求すると、買い手にかかる負担が大きくなります。売り手である免税事業者の売上に変化はありません。しかし買い手側にとっては、取引内容が同じであるにも関わらず、取引にかかる金銭的な負担が大きくなるイメージです。
したがって、今後は免税事業者による消費税分の上乗せ請求が忌避される可能性が高いです。免税事業者は消費税分の請求ができなくなるケースも有り得るでしょう。
ただし、消費税分の値下げ要求に承諾しなければ取引を中断する・売り手の価格交渉に応じないなど、買い手側による一方的な対応は独占禁止法に触れる可能性があります。また、取引完了後に消費税分を減額する行為は下請法に違反します。このような法律の存在により、強引な対応をとられるリスクは低いといえます。
いずれにせよ、インボイス制度開始後に免税事業者が消費税分の上乗せ請求をしようとした場合、取引先との協議や価格交渉が必要になる可能性が高いと考えられます。
課税事業者に対する仕入れの経過措置
これから先、免税事業者が課税事業者である取引先と協議や価格交渉をしていく場合、知っておくべきことがあります。それは課税事業者に対する仕入れの経過措置です。主に2つあります。
1つ目はインボイス制度開始から一定期間は、免税事業者からの仕入であっても仕入税額控除ができることです。令和5年10月1日から令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%は、仕入税額とみなして控除できます。
2つ目は少額特例です。税込1万円未満の課税仕入れはインボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるため、免税事業者との取引でも小額であれば問題ありません。ただし課税事業者に条件があります。
インボイス制度に向けて免税事業者がとるべき対策
インボイス制度は免税事業者に大きな影響を与える制度です。インボイス制度の開始に伴うリスクを最小限に抑えるため、事前に対策をとるのが理想といえます。
インボイス制度に向けて免税事業者がとるべき対策として、以下の3つが挙げられます。
- インボイス制度・消費税の仕組みについて理解を深める
- 取引先としっかり交渉する
- 相談できる窓口や専門家について把握する
それぞれ詳しく解説します。
インボイス制度・消費税の仕組みについて理解を深める
インボイス制度の開始によるリスクを抑えるため、まずはインボイス制度・消費税の仕組みについて理解を深めることが大切です。
仕組みや制度を知らない状態とは、そもそも何をするべきなのか・自分にどのような影響があるのか把握できていない状態です。結果として、本来は避けられる悪影響まで受けてしまうことや、ひどい場合には搾取の対象となるケースも有り得ます。
インボイス制度に限らず、何らかの制度による損失や悪影響を最小限に抑えるためには、とにかく「知ること」が必要不可欠です。仕組みを知らない状態では、自分がやるべきことや効果的な対策の正しい判断もできません。
このページには、インボイス制度の開始に向けて、免税事業者が知っておくべき情報を一通りまとめました。今回扱った内容を押さえるだけでも、インボイス制度に対する理解を十分に深められるでしょう。
取引先としっかり交渉する
インボイス制度による不利益を避けるため、取引先としっかり交渉することも大切です。
インボイス制度の開始に伴い、買い手側が免税事業者との取引によって受ける金銭的な負担は大きくなると考えられます。そのため、課税事業者である買い手から、値下げや取引の見直しなどを要求される可能性が高いです。
取引において、売り手よりも買い手の方が力が大きい場合が多いです。特に買い手が企業で売り手が個人や小規模事業者である場合、売り手の発言権は小さくなりやすいのが事実です。交渉といっても実際は強制に近く、買い手側の要求を飲まざるを得ないと感じることもあるでしょう。
しかし、買い手の要求を飲むばかりでは、自身にとって不利な取引になる恐れが大きいです。買い手からの要求を受けた場合、売り手側である免税事業者も主張を行い、対等な交渉を行う必要があります。
相談できる窓口や専門家について把握する
インボイス制度に関して相談できる窓口や専門家を把握しておくと安心です。
前項でも触れたように、売り手側はもともと取引において不利な立場になりやすい上、個人事業主は力が弱くなりやすいです。規模の大きい事業者と小規模事業者とでは情報格差も起こり得ます。買い手と売り手が対等な状態が理想ですが、実際は売り手側の力が弱いケースが多いです。インボイス制度に関しても、十分な交渉ができない可能性が考えられます。
インボイス制度について、あらかじめ相談先の候補を見つけておくと安心です。相談先を知っている事実が安心感につながりますし、万が一の事態において実際に相談することもできます。
インボイスに関する相談先の例を紹介します。
- インボイス制度電話相談センター:インボイス制度や軽減税率について相談できるコールセンターです
- 公正取引委員会本局・地方事務所:独占禁止法や下請法に関する相談ができます
- 商工会議所:経営に関する幅広い相談を受け付けています。インボイス制度の開始に伴う事業環境の変化に関する相談も可能です
- 税理士:適格請求書発行事業者に登録するべきか、一般課税と簡易課税のどちらが良いかなど、税務に関する相談に適しています
インボイスに向けて課税事業者になる選択肢も有
インボイス制度の開始後も、消費税の免税要件に変わりはありません。課税事業者への切り替えをせず、免税事業者のままでいることも可能です。
しかしこれまで紹介したように、インボイス制度の開始によって免税事業者が悪影響を受ける恐れはあります。インボイス制度の開始後に考えられるリスクを避けるため、課税事業者になるのもひとつの選択肢です。
この章では免税要件を満たす事業者が課税事業者になる上で押さえたいポイントを解説します。
課税事業者になるための手続き
免税要件を満たす事業者が消費税の課税事業者になる場合、本来は消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。
届出書の提出期日は、課税事業者になろうとする事業年度がはじまる日の前日です。たとえば事業年度が4月1日から3月31日の事業者が、令和5年度から課税事業者になろうとする場合、令和5年3月31日までに届出書を提出する必要があります。このように本来は、届出書を提出した日の翌事業年度から消費税の課税事業者になるイメージです。
ただし、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けるために課税事業者になる場合は例外が認められています。
適格請求書発行事業者になるためには、登録申請書を提出する必要があります。こちらの登録申請書に登録希望日を記載することで、記載した日から課税事業者になるとみなされる仕組みです。
この経過措置の適用を受ける場合、消費税課税事業者選択届出書を別途提出する必要はありません。適格請求書発行事業者の登録申請書を提出するのみで、課税事業者の登録も完了となります。
※経過措置の適用を受けるのは、令和5年10月1日~令和11年9月30日までの日が属する課税期間です。経過措置の適用を受けない課税期間に適格請求書発行事業者の登録手続きを行う場合、課税事業者になるためには原則通りに届出書を提出する必要があります。
また、基準期間の課税売上高が5,000万円以下である場合、簡易課税制度の選択も可能です。消費税の免税要件を満たす事業者は必然的に簡易課税制度の要件も満たしています。
簡易課税制度を利用する場合、消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要です。
本来、消費税簡易課税制度選択届出書の提出期日は、適用を受けようとする事業年度の初日の前日です。前述した課税事業者選択届出書と同様に、書類を提出した日の翌事業年度から適用を受けるイメージとなります。
ただし、前項で紹介した適格請求書発行事業者の登録に関する経過措置の適用を受ける事業者は、簡易課税の届出についても特例が適用されます。
消費税簡易課税制度選択届出書に「適格請求書発行事業者としての登録日が属する課税期間から簡易課税制度の適用を受ける」旨を記載すれば、期日までに届出書が提出されたとみなされる仕組みです。
消費税簡易課税制度選択届出書を提出しない場合、自動的に一般課税が適用されます。簡易課税と一般課税はそれぞれ異なる特徴があり、どちらが得であるかもケースによって異なります。メリット・デメリットの比較や納付税額のシミュレーションを行った上で、自社に会う方を選びましょう。
免税事業者が課税事業者になるメリット・デメリット
さまざまな面から考えて課税事業者になる選択をすることもあるでしょう。その場合のメリット・デメリットを知っておくことで対処できることもたくさんあります。
■課税事業者になるメリット
インボイス制度を機に課税事業者になる免税事業者は増えると考えられます。実は課税事業者になるメリットはいくつかあるので、ぜひしっかりとメリットを享受しましょう。
まずインボイス制度に登録し、適格請求書発行事業者となれることです。免税事業者では適格請求書(インボイス)の発行ができないため、取引先とのやりとりにも不利なことがありますが、これらの問題が解消しやすくなります。
適格請求書を発行することで、取引先も消費税の仕入税額控除が受けられるため、値引きや取引がなくなるなどの心配はなくなるでしょう。
また課税事業者になることで、仕入れで払った消費税を仕入税額控除ができます。簡易課税制度を利用すれば、事務処理の負担も軽減されるので活用するのもおすすめです。
さらにインボイス制度を機に課税事業者登録する場合は、いくつかの軽減措置があります。詳しくは後述しますが、インボイス制度の登録と課税事業者の登録が一度の手続きで済んだり、税務面において優遇措置があったりと知っていると活用できる制度です。
■課税事業者になるデメリット
一番のデメリットはやはり消費税を納める必要が出てくることです。免税事業者は取引先に消費税を請求しても、実際に納税はしていないので消費税分は収入となっていました。しかし課税事業者になれば、仕入れ分の消費税を差し引いた残りは納税しなくてはいけません。
また申告の際に消費税の申告もする必要があるので、それらの手間が増えることになります。請求書などの形式も変わるので、対応する必要があるでしょう。
インボイス制度の負担軽減措置
今まで消費税を納めなくてよかった免税事業者が、インボイス制度を機に課税事業者となることでさまざまな負担が増えることも懸念されます。そこでその負担を少しでも軽くできるような措置がいくつかあります。
■2割特例
インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になり、適格請求書発行事業者となった場合、仕入税額控除に関する特例があります。消費税の納税額を計算する際、仕入税額控除を「預かり消費税×80%」の特別控除税額にできる制度です。これを2割特例といいます。
2割特例を適用する方法は簡単で、消費税の申告時に2割特例を適用したことを追記するだけです。また継続して2割特例を適用する必要はありません。
2割特例を適用できる期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの課税期間となります。個人事業主と法人とでは決算時期によっては適用期間が異なるので注意が必要です。
参照:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要 」
■IT補助金
中小企業を対象に、インボイス制度に登録することで必要になると考える会計ソフトなどの導入のための補助金があります。免税事業者の時にはあまり手間をかけることなく済ませていた会計処理も、適格請求書を発行したり、消費税の申告をしたりと手間が増えます。それをカバーできる会計ソフトなどを導入する際に活用できます。
インボイス制度に対応しているのは、デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)で、対象者などに要件があります。補助対象になるのは会計や受発注などの機能を有するソフトウェアや、PCやタブレット、POSレジ、券売機などのハードウェアなどです。当てはまるようであれば、ぜひ活用しましょう。
参照:IT導入補助金2023
消費税の申告・納付の概要
消費税の申告および納付期日は、法人と個人で異なります。それぞれ以下の通りです。
- 法人:課税期間の終了の日から2ヶ月以内
※消費税申告期限延長届出書を提出した場合は申告期限が1ヶ月延長となる
- 個人:翌年の3月31日
※振替納税を選択している場合、4月の下旬あたりに自動で引き落としされる
法人に申告期限の延長という選択肢があるのは、株主総会の開催が決算日から3ヶ月以内と定められているためです。正確な決算申告書は、株主総会の実施後でなければ作成できません。株主総会の実施が消費税の申告期日以降であるケースを考慮して、申告期限の延長の措置が用意されているのです。
個人の消費税の申告および納付期日は、所得税の期日と異なります。正しい申告・納税のためには、税金の種類ごとに期日をしっかり押さえることが大切です。
まとめ
インボイス制度は売り手・買い手の両方に大きな影響を与える制度です。消費税の納付義務がない免税事業者も、インボイス制度の開始によってさまざまな影響を受けると考えられます。
インボイス制度の開始後も、免税事業者が消費税分の上乗せ請求をすることは可能です。しかし実際のところ、消費税分の値下げを要求される・取引に関して交渉を受ける可能性が高いでしょう。
インボイス制度の開始による悪影響を最小限に抑えるため、免税事業者ができる対策を実施することが大切です。今回紹介した内容を押さえ、インボイス制度の開始にしっかり備えましょう。
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