インボイス制度は簡易課税に影響を与える?課税事業者が押さえたいポイント紹介
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令和5年10月1日からインボイス制度が開始されます。インボイス制度は消費税に関する新たな制度であり、インボイス制度の開始によって規模の大小問わず多くの事業者が影響を受ける可能性が高いです。
消費税関連の現行制度のうち、多くの事業者に関係する制度として簡易課税制度が存在します。消費税の課税事業者の中には、簡易課税制度を利用している事業者も多くみられます。また、これから消費税の課税事業者になろうと考えている事業者の中にも、簡易課税制度の選択を検討しているケースが多いのではないでしょうか。
そんなインボイス制度と簡易課税制度はどちらも消費税に関連する制度です。そのため、インボイス制度の開始によって、簡易課税制度が何らかの影響を受けると不安に思う人も多いかもしれません。
今回はインボイス制度と簡易課税制度について、課税事業者が押さえるべき情報を詳しく解説します。
※今回紹介する内容は2023年4月時点の情報に基づきます。今後の動きや税制改正などにより変更が生じる可能性がある旨にご注意ください。
目次[非表示]
- 1.インボイス制度とは
- 2.消費税の課税制度 一般課税と簡易課税
- 3.インボイス制度の導入後も簡易課税制度は利用できるのか
- 4.インボイス制度と簡易課税制度 必要な手続き
- 4.1.適格請求書発行事業者の登録手続き
- 4.2.簡易課税事業者の登録手続き
- 5.簡易課税と一般課税どちらを選ぶべきか
- 5.1.一般課税のメリット・デメリット
- 5.2.簡易課税のメリット・デメリット
- 5.3.どちらが得になる?具体例を用いてシミュレーション
- 6.簡易課税制度の注意点
- 6.1.簡易課税の適用を受けるためには届出が必須
- 6.2.一般課税への切り替えができるまで一定期間を要する
- 6.3.売上が一定額を超える場合は利用できない
- 6.4.ケースによってはかえって手間・税額が大きくなる恐れ
- 7.まとめ
- 8.経理業務でお悩みのときは、グランサーズにご相談ください!
インボイス制度とは
インボイス制度は消費税の仕入税額控除の方式です。
そもそも適格請求書(インボイス)とは、取引の正確な税率や消費税額を伝えるために必要情報を正しく記載した請求書です。適格請求書には以下の項目を記載する必要があります。
- 請求者発行者の名称
- 請求書の交付を受ける事業者の名称
- 取引の年月日
- 取引内容
- 適用税率ごとに区分した上での対価の合計額
- 請求書発行者の登録番号:適格請求書発行事業者の登録番号
- 適用税率
- 適用税率ごとに区分した上での消費税合計額
現在適用されている消費税率は、8%と10%の2つが存在します。2つの異なる税率が存在する中で、どの取引にどの税率が適用されているのか、請求書の内容からは不明瞭なケースも珍しくありませんでした。取引の内容に不明瞭な部分が存在する状態は、正しい会計処理や税額計算・申告ができない原因となります。
インボイス制度は取引ごとの適用税率を明確にし、正確な経理処理や消費税額に関する責任の所在を明確にするために導入される制度です。
インボイス制度の開始以降は原則として、消費税の仕入税額控除の対象となるのが適格請求書(インボイス)を保管している取引に限られます。そして、インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者であり、適格請求書発行事業者として登録できるのは消費税の課税事業者のみです。
現行の制度において、基準期間の売上高が1,000万円以下の事業者は消費税の免税事業者になることができます。しかしインボイス制度の開始後は、免税事業者が発行した請求書の取引は消費税の仕入税額控除の対象になりません。すなわち売り手が免税事業者である場合の取引は、買い手である事業者にとってデメリットが大きくなってしまうのです。
このような理由から、消費税の免税要件を満たしていても、適格請求書発行事業者の登録をするために消費税の課税事業者となることを検討する事業者が多くみられます。
消費税の課税制度 一般課税と簡易課税
消費税の納付額を計算する方法は一般課税と簡易課税の二種類です。原則的な方法は一般課税ですが、売上が一定以下の課税事業者は一般課税と簡易課税のどちらか好きな方を選択できます。
この章では消費税の一般課税と簡易課税それぞれについて詳しく解説します。
一般課税とは
一般課税は消費税の原則的な計算方法です。消費税の課税事業者になる際、特に何も手続きをしなければ自動的に一般課税が適用されます。また、簡易課税事業者の要件を満たさない場合は、一般課税による計算しかできません。
一般課税では納付する消費税額を以下の式で計算します。
課税売上にかかる消費税額-課税仕入れ等にかかる消費税額=納付する消費税額 |
一般課税によって消費税を計算するためには、課税売上にかかる消費税額・課税仕入れ等にかかる消費税額、両方の集計が必要です。
また「インボイス制度とは」の章で触れたように、2023年現在日本には消費税率が2種類存在します。納付する消費税額を正しく計算するためには、すべての取引について適用される税率の正しい記録が求められます。消費税の税率を誤って記録してしまうと消費税額にズレが生じてしまい、誤った納付税額になってしまう恐れが大きいです。
簡易課税とは
簡易課税とは課税売上にかかる消費税額に一定率を乗じた金額を、課税仕入れ等にかかる消費税額とみなして納付税額を計算する方法です。課税売上にかかる消費税額に乗じる利率をみなし仕入率といいます。
簡易課税による消費税の計算式は以下の通りです。
課税売上にかかる消費税額-(課税売上にかかる消費税額×みなし仕入率)=納付する消費税額 |
簡易課税で用いるみなし仕入率は、以下のように業種ごとに定められています。
- 第1種事業 卸売業:90%
- 第2種事業 小売業・農林漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業):80%
- 第3種事業 農林漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業以外)・建設業・製造業など:70%
- 第4種事業 飲食店業などその他事業:60%
- 第5種事業 運輸・通信業・金融・保険業などサービス業:50%
- 第6種事業 不動産業:40%
※複数の事業を営む事業者の場合、原則として売上高を業種ごとに区分し、それぞれ対応するみなし仕入率を乗じた計算が必要です。ただし簡便的な計算ができるケースもあります。
たとえば保険業を営む会社で簡易課税制度を用いる際は、課税売上にかかる消費税額に50%を乗じた結果を、課税仕入れ等にかかる消費税額として計算します。
簡易課税制度を選択するための条件は以下の通りです。
- 基準期間(個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下である
- 簡易課税の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、納税地の所轄税務署へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する
※新規開業の事業者の場合、開業した事業年度の末日が届出書の提出期限となる
前述のように、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であっても、消費税簡易課税制度選択届出書の提出がなければ自動的に一般課税となります。
インボイス制度の導入後も簡易課税制度は利用できるのか
これまでに紹介したように、消費税の納付額を計算する原則的な方法は一般課税です。簡易課税を選択できるのは基準期間の課税売上高が一定以下であり、かつ、期日までに必要な届出書を提出した事業者のみとなります。簡易課税制度は、消費税の例外的な計算方法であるということができます。
簡易課税制度は課税仕入れ等にかかる消費税額を簡便的に計算する方法です。そして、2023年10月から始まるインボイス制度は、消費税の仕入税額控除に関係する制度です。いずれも消費税に関係する制度であるため、両者が影響し合うのではないかと不安に感じる人も多いでしょう。
この章では、インボイス制度の導入後も簡易課税制度は利用できるのか、結論と理由をそれぞれ詳しく解説します。
インボイス制度導入後も簡易課税の選択は可能
結論から申し上げると、インボイス制度導入後も簡易課税の選択は可能です。
現在すでに簡易課税事業者であれば、インボイス制度の開始後もそのまま簡易課税事業者となります。インボイス制度の導入が原因で勝手に一般課税に切り替わることはありません。また、これから消費税の課税事業者となる人も、前述した要件さえ満たしていれば簡易課税を選択できます。
適格請求書発行事業者の登録要件に、課税制度に関する内容はありません。インボイス制度と簡易課税制度はいずれも消費税に関する内容ではありますが、それぞれ独立している制度なのです。
現時点において、インボイス制度と簡易課税制度が双方に何らかの影響を与える恐れはないといえます。したがって、インボイス制度の開始後も、これまでと同様の方法で消費税の簡易課税制度の適用を受けられます。
インボイス制度の開始による影響とは
インボイス制度の開始後も、簡易課税制度の内容や要件に変更はありません。インボイス制度が開始された後も、簡易課税を利用するための要件は「簡易課税とは」の項で紹介した内容と同じになります。
インボイス制度と簡易課税制度はどちらも消費税に関する内容とはいえ、それぞれ独立したものであり、まったく異なる制度です。
インボイス制度は消費税の仕入税額控除の仕組みを変える制度です。一般課税における消費税の納付税額は、課税売上にかかる消費税額から課税仕入れにかかる消費税額を控除して計算すると紹介しました。しかしインボイス制度の開始後は、課税売上にかかる消費税額から控除できるのが、インボイス(適格請求書)を保管している取引のみとなります。
消費税の課税対象となる取引であっても、売り手側が発行した請求書が適格請求書でなければ、対象の取引にかかる消費税額を控除できないのです。言い換えるとインボイス制度の開始後に論点となるのは、発行された請求書が適格請求書であるか否か、この点のみとなります。
簡易課税制度は、納付する消費税額の計算方法に関する制度です。簡易課税制度の適用を受けることで、課税仕入れにかかる消費税額の計算が容易になります。課税売上にかかる消費税額とみなし仕入率を用いて計算するため、仕入れ等にかかる実際の消費税額は関係ありません。
このように、インボイス制度と簡易課税制度はそれぞれ異なる目的の制度であり、それぞれの制度が直接的に影響を与えるものではないのです。すなわち、インボイス制度の開始が簡易課税事業者に直接不利益を与える恐れはありません。
すでに簡易課税制度の適用を受けている課税事業者であれば、これまでと変わりなく簡易課税制度を活用できます。これから新たに適格請求書発行事業者に登録・簡易課税制度の届出を行うことも可能ですが、その際は早めの手続きが必要です。
インボイス制度と簡易課税制度 必要な手続き
インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者として登録した事業者のみです。そして簡易課税による消費税計算を行うためには、期日までに所定の届出を行う必要があります。
すなわち、適格請求書発行事業者への登録と簡易課税制度の適用には、どちらも一定の手続きが必要です。
この章では適格請求書発行事業者と簡易課税事業者、それぞれの登録手続きの方法や注意点を詳しく解説します。
適格請求書発行事業者の登録手続き
前述したように、適格請求書発行事業者として登録できるのは消費税の課税事業者のみです。
原則として、消費税の免税事業者が課税事業者になるためには、期日までに消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。届出書の提出期日は課税事業者になろうとする事業年度がはじまる日の前日です。すなわち本来は、届出書を提出した日の翌事業年度から、消費税の課税事業者になるイメージです。
ただし、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けるために課税事業者になる場合、特例として経過措置が設けられています。適格請求書発行事業者の登録申請書に登録希望日を記載することで、記載した登録希望日から課税事業者になる仕組みです。経過措置の適用を受ける場合、消費税課税事業者選択届出書を別途提出する必要はありません。
※経過措置の適用を受けるのは、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日が属する課税期間です。経過措置の適用を受けない課税期間に適格請求書発行事業者の登録手続きを行う場合、通常通り消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。
インボイス制度が開始となる令和5年10月1日から登録を受けるためには、令和5年9月30日までに登録申請書を提出する必要があります。提出方法は以下の2種類です。
- 紙による提出:納税地を管轄するインボイス登録センターへ送付します。申請書には提出先として「税務署長」と記載されていますが、書類の送付先はインボイス登録センターである点にご注ください
- e-Taxによる申請手続き:国税庁の電子申告システムであるe-Taxを利用した電子申請も可能です。e-Taxの利用には事前準備が必要となります
適格請求書発行事業者の登録が完了すると、税務署から登録通知が届きます。登録通知には適格請求書発行事業者の登録番号が記載されているため、必ず確認・保管をしましょう。
簡易課税事業者の登録手続き
続いて、簡易課税の適用を受けるために必要な手続きを紹介します。
簡易課税の適用を受けるためには原則として、簡易課税の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要です。届出書を提出した日の翌事業年度から簡易課税の適用が開始されるイメージです。
しかし、前項で紹介した適格請求書発行事業者の登録に関する経過措置の適用を受ける場合、簡易課税の届出についても特例が適用されます。
届出書に「適格請求書発行事業者としての登録日が属する課税期間から簡易課税制度の適用を受ける」という旨を記載することで、期日までに届出書が提出されたとみなされます。
たとえば事業年度が1月から12月の場合、インボイス制度が開始される令和5年10月1日が含まれる事業年度に簡易課税の適用を受けるためには、本来は令和4年12月31日までに届出書の提出が必要です。
しかし消費税簡易課税制度選択届出書の提出にかかる特例の適用を受ける場合、届出書の提出期日は事業年度の末日になります。したがって例に挙げた事業者の場合、令和5年12月31日までに必要事項を記載した届出書を提出すれば、令和5年分から簡易課税の適用を受けられるのです。
免税事業者が適格請求書発行事業者に登録し、令和5年10月1日が含まれる課税期間から簡易課税の適用を受けるための手続きについて、簡単にまとめると以下のようになります。
- 令和5年9月30日までに適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する
※経過措置の適用により、消費税課税事業者選択届出書の提出が不要 - インボイス制度が開始される令和5年10月1日が含まれる課税期間の末日までに「適格請求書発行事業者としての登録日が属する課税期間から簡易課税制度の適用を受ける」旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を提出する
※特例により届出書の提出期日が延長
簡易課税と一般課税どちらを選ぶべきか
これまで紹介したように、一般課税と簡易課税では仕入れにかかる消費税額の計算方法が大きく異なります。原則的な方法は一般課税であり、簡易課税の適用要件を満たす事業者であっても、一般課税を利用することが可能です。
一般課税と簡易課税では、計算の手間はもちろん納付する消費税の金額自体も変わるため、どちらの方法を選ぶべきか入念な検討が必要です。
この章では一般課税と簡易課税を比較するため、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
一般課税のメリット・デメリット
一般課税の大きなメリットは、実施に際して特別な手続きが必要ない点です。
一般課税は消費税を計算する方法として原則的な手段です。たとえ基準期間の課税売上高が5,000万円以下で簡易課税の要件を満たしている場合でも、届出書を提出しなければ自動的に一般課税が適用されます。届出が不要な点だけでなく、実施に際して特別な考慮や要件を満たしているかの検討が不要な点もメリットといえるでしょう。
一般課税のデメリットは、会計処理をはじめとした事務作業の手間が大きい点です。
一般課税の場合、消費税額を正しく計算するため、売上・仕入ともに正しい税率を記録する必要があります。10%と8%を誤ってしまう・非課税取引や不課税取引の設定ミスを起こすなどの要素は、消費税額にズレが生じる原因です。
また、納税額の予測が難しい点もデメリットといえます。簡易課税であれば、売上高の予測さえできれば売上にかかる消費税額も計算でき、そこにみなし仕入率を乗じれば仕入にかかる消費税額の予測も可能です。
一般課税の場合、消費税の納付額を計算するためには、売上にかかる消費税額・仕入にかかる消費税額の両方を予測する必要があります。このように通常の会計処理や集計手続きだけでなく、納付額の予測にも大きな手間がかかるのです。
簡易課税のメリット・デメリット
次に簡易課税のメリット・デメリットを紹介します。
簡易課税の大きなメリットは、会計処理や納税額の計算、決算手続きの負担が小さくなる点です。
簡易課税では売上にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じた結果を、仕入にかかる消費税額とみなします。そのため、仕入にかかる消費税額の正確な集計が必要ありません。
簡易課税によって消費税額を計算する場合、正しい税率の設定や税率ごとの集計などの手間が発生せずに済みます。売上にかかる消費税額の正しい集計が必要な点は変わらないものの、一般課税よりもトータルでの手間が小さいのは事実です。
簡易課税のデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 簡易課税による計算のためには、期日までに届出書の提出が必要
- 一度簡易課税を選択すると、その後一般課税への切り替えができるまで一定期間を要する
- 複数の事業を営んでいる場合、売上高を業種ごとに区分した上でそれぞれにみなし仕入率を乗じるなど、かえって計算の手間が大きくなるケースがある
簡易課税のデメリットについて詳しい内容は「簡易課税制度の注意点」の章で解説します。
簡易課税は消費税の計算や事務処理の手間が小さくなるとはいえ、デメリットや注意点の数自体は多い方法です。
どちらが得になる?具体例を用いてシミュレーション
一般課税と簡易課税どちらを利用するかによって納付する消費税額が変わります。消費税額を最小限に抑えて節税効果を得るためには、実際のシミュレーションが欠かせません。
この項では、簡単な例を2つ用いて一般課税と簡易課税の消費税額の違いを紹介します。
1つ目の例として、以下の条件で消費税額を計算します。
- 業種:小売業
- 売上にかかる消費税額:300万円
- 仕入にかかる消費税額:200万円
※簡易課税の要件を満たしているものとします
まずは一般課税を使う場合です。一般課税では売上にかかる消費税額から仕入にかかる消費税額を差し引いた額が納付する消費税額となります。したがって今回用いる例の場合、納付する消費税額は以下の通りです。
300万円-200万円=100万円 |
次に簡易課税を使う場合です。簡易課税では仕入にかかる消費税額は利用しません。実際の金額は一切考慮せず、売上にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じた金額を仕入にかかる消費税額として利用します。
今回の例は小売業であり、みなし仕入率は80%です。したがって納付する消費税額は以下のようになります。
300万円-(300万円×80%)=60万円 |
この例の場合は、一般課税よりも簡易課税で計算した方が納付する消費税額が小さくなり有利です。
2つ目の例として、業種や売上にかかる消費税額はそのまま、仕入にかかる消費税額のみ変えた以下の条件を用います。
- 業種:小売業
- 売上にかかる消費税額:300万円
- 仕入にかかる消費税額:250万円
一般課税の場合、納付する消費税額は以下の通りです。
300万円-250万円=50万円 |
簡易課税の場合は以下のようになります。
300万円-(300万円×80%)=60万円 |
売上にかかる消費税額は最初に提示した例と同じであるため、納付する消費税額も同じ金額になります。
1つ目に提示した例では簡易課税が有利でしたが、2つ目に提示した例の場合、簡易課税よりも一般課税の方が税額が小さくなりました。
2つの例において、仕入にかかる消費税額以外は同じ条件を用いています。すなわち条件が少し変わるだけで、一般課税と簡易課税どちらの方が有利になるか、全く違う結果になり得るのです。
このように、一般課税と簡易課税どちらが有利であるか一概には言い切れません。ある事業年度は簡易課税が有利であっても、翌事業年度は一般課税が有利になるケースも有り得ます。
事前にシミュレーションをするのはもちろん、より遠い将来や、前述したメリット・デメリットも考慮した上での判断が大切です。
簡易課税制度の注意点
簡易課税の注意点として、以下の4つが挙げられます。
- 簡易課税の適用を受けるためには届出が必須
- 一般課税への切り替えができるまで一定期間を要する
- 売上が一定額を超える場合は利用できない
- ケースによってはかえって手間・税額が大きくなる恐れ
簡易課税の利用を検討する際は、単純なメリットだけでなく、注意点を把握した上で考えることが大切です。注意点についてそれぞれ詳しく解説します。
簡易課税の適用を受けるためには届出が必須
すでに解説したように、簡易課税の適用を受けるためには期日までの届出が必須です。簡易課税の要件を満たしている場合でも、届出がなければ自動的に一般課税が適用されます。
届出書の提出をしていない場合だけでなく、提出期日を過ぎてしまった場合も、その年は一般課税になってしまいます。簡易課税と一般課税のどちらが適用されているか正しく把握していなければ、誤った税額計算をしてしまう恐れが大きいです。
簡易課税制度選択届出書の提出期日は、簡易課税の適用を受けようとする事業年度の初日の前日です。簡易課税を検討しているのであれば、早めに手続きを行いましょう。
なお前述のように、インボイス制度の開始にともない課税事業者になる場合、届出書に必要事項を記入すれば期日までに届出書が提出されたとみなされます。
一般課税への切り替えができるまで一定期間を要する
一度簡易課税を選択すると、原則として以降の2年間は一般課税への切り替えができません。2年間は簡易課税による計算を行う必要があります。
たとえば令和4年度分から簡易課税を選択する場合、令和4年度・令和5年度は簡易課税となります。もし令和5年度は一般課税の方が有利だとしても、一般課税への切り替えはできません。
原則2年間は簡易課税でなければならない旨を押さえた上で、簡易課税を選択するべきか検討する必要があります。
なお、簡易課税から一般課税へ切り替える際には、消費税簡易課税制度選択不適用届出書の提出が必要です。提出期日は、簡易課税の適用を辞めようとする課税期間の初日の前日です。
売上が一定額を超える場合は利用できない
すでに解説したように、簡易課税は基準期間の売上高が5,000万円以下の場合のみ選択できる制度です。簡易課税の売上高が5,000万円を超えている場合、たとえ届出書を提出しても簡易課税の適用を受けられません。
前項で、一度簡易課税を選択すると、最低でも2年間は簡易課税になる旨を解説しました。しかし、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合、例外として一般課税が適用されます。
例として、令和2年度の売上高が4,000万円・令和3年度の売上高が7,000万円であり、令和4年度分から簡易課税を選択するケースを考えます。
通常であれば、令和4年度と令和5年度の2年間は一般課税を選択できず、簡易課税が適用されます。しかし今回の例の場合、令和5年度は簡易課税の要件を満たしていません。したがって令和5年度分は自動的に一般課税の対象となります。
簡易課税の適用を受けられるのは、あくまでも売上高の要件を満たしている場合のみです。
ケースによってはかえって手間・税額が大きくなる恐れ
簡易課税は税額計算や事務処理の手間が小さい点がメリットと紹介しました。また具体例を用いたシミュレーションで確認したように、簡易課税で計算する方が納付する消費税額が小さくなるケースもあります。
しかし、すべてのケースで簡易課税が有利なわけではありません。ケースによってはかえって手間・税額が大きくなる恐れもあります。
簡易課税の選択がかえって不利になる例のひとつは、単純に仕入や経費の額が大きいケースです。シミュレーションの例で紹介したように、仕入や経費にかかった実際の消費税額が大きい場合は、一般課税で計算した方が納付する消費税額が小さくなります。
同業他社と比較して課税仕入れの割合が大きい場合は、一般課税の方が有利でしょう。また、設備投資やオフィス移転のように多額の支出が見込まれる事業年度も、簡易課税では不利になる恐れがあります。
簡易課税が不利になるもうひとつの代表例が、輸出売上をはじめ免税売上の割合が大きいケースです。
仕入や経費の支出は国内・売上は国外がメインである場合、売上総額のわりに上にかかる消費税額は小さくなります。結果として、みなし仕入率を乗じて計算した金額が、仕入等に対して実際にかかった消費税額よりも遥かに小さくなってしまうのです。
簡易課税が有利になるのは、売上にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じた結果が、実際の仕入にかかる消費税額よりも大きくなる場合といえます。仕入等の支出が大きいケースや課税売上高の割合が小さいケースでは、一般課税の方が納付する消費税額が小さく有利である可能性が高いです。
また、複数の事業を営む事業者の場合、業種ごとに売上にかかる消費税額を集計した上でそれぞれにみなし仕入率を乗じる必要があります。簡易課税であっても、消費税計算の手間が大きくなり得るのです。
簡易課税を利用するメリットが大きいか、簡易課税が不利ではないか、入念な検討が必要となります。
まとめ
インボイス制度が開始された後も、簡易課税制度の要件やルールが変わるわけではありません。インボイス制度と簡易課税制度はそれぞれ独立した制度であり、両者が何らかの影響を与え合うわけではないのです。
インボイス制度の開始に伴い課税事業者になる場合、経過措置の適用によって通常よりも手続きが少なくて済みます。簡易課税の選択に際しても、届出書に必要事項を記載すれば期日までに提出が行われたとみなされるため安心です。
一般課税と簡易課税は、それぞれ異なるメリット・デメリットを有します。どちらが有利であるかはケースによって異なるため一概にはいえません。また、簡易課税制度には注意するべきポイントも複数存在します。
一般課税と簡易課税それぞれについて正しく理解した上で、自身に適した方法を選ぶことが大切です。
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