マイクロ法人とは?個人事業主より節税できる法人化のメリットと注意点、設立の手順
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個人事業が発展し利益が出るようになると、「節税」が気になります。節税の手段にはさまざまなものがありますが、中でも近年、特に注目を集めているものの一つが「マイクロ法人」です。
自分の事業にマイクロ法人が適しているかどうか、しっかりと理解したうえで法人化の判断をすることが重要です。
この記事では、マイクロ法人の特徴やメリット・注意点、設立手順などを詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.マイクロ法人とは
- 1.1.マイクロ法人と一般的な会社の違い
- 1.2.マイクロ法人に向いている場合
- 2.マイクロ法人のメリット
- 2.1.節税効果が期待できる
- 2.2.社会保険料を抑えられる
- 2.3.社会的な信用を得やすい傾向がある
- 3.マイクロ法人の設立を検討する場合の注意点
- 3.1.設立および維持のコスト
- 3.2.事務作業の増加
- 3.3.売上なしでも費用がかかる
- 4.個人事業主がマイクロ法人に移行する場合に必要な手続き
- 4.1.マイクロ法人の設立手続き
- 4.2.個人事業の資産・負債の引継ぎ
- 5.まとめ
マイクロ法人とは
マイクロ法人とは、中小企業の中でも特に規模の小さな法人のことをいいます。代表者が一人で事業を行っているのが特徴です。最近では、個人事業主が法人化するときに、マイクロ法人を選ぶ人が増えています。
普通の中小企業に比べて、設立の手続きがシンプルで、運営にかかるお金も少なくて済むのが魅力です。個人事業主にとってマイクロ法人は法人化しやすい選択肢の一つといえます。
マイクロ法人と一般的な会社の違い
マイクロ法人と一般的な会社の大きな違いは、規模の小ささにあります。
マイクロ法人は、経営者のみが在籍し、資本金も少額であるケースがほとんどです。また組織体制もシンプルで、意思決定のスピードが速いのも魅力の一つといえます。
一方、一般的な会社は従業員数が多く、資本金も大きいケースが多いです。組織体制も複雑で、意思決定に時間がかかる傾向にあります。
マイクロ法人は、一般的な会社と比べて、小回りが利くことが大きな特徴です。
マイクロ法人に向いている場合
では、どのような場合がマイクロ法人に適しているのでしょうか。以下で、それぞれを解説します。
事業が小規模な場合
事業規模が小さい場合は、マイクロ法人に適しています。個人事業主から法人化する際に、事業内容があまり変わらないケースが多いからです。
小規模な事業であれば、マイクロ法人の設立手続きや運営コストも抑えられるため、法人化のハードルが低くなります。
個人事業主として成功している場合
個人事業主としてある程度の利益を上げている場合、法人化することでさらなる節税効果やメリットを受けられる可能性があります。
個人事業主の場合、事業規模が大きくなるにつれて、所得税の負担が大きくなります。マイクロ法人に移行することで、法人税率の適用を受けられるため、節税効果が期待できます。
また、法人化することで、社会的信用度が向上し、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなるメリットもあります。
事業の拡大を目指す場合
将来的に事業規模の拡大を目指している場合、マイクロ法人を設立することで、法人としての信用力を得ながら、着実に成長の基盤を築けます。
また、マイクロ法人として一定の実績を積んだ後に、一般的な中小企業へと移行することも可能です。マイクロ法人は、事業の拡大を目指す個人事業主にとって、有力な選択肢の一つといえます。
マイクロ法人のメリット
個人事業主がマイクロ法人を設立することにはメリットは以下の3つです。
- 節税効果
- 社会保険料の削減
- 社会的信用の向上
以下、詳しく説明します。
節税効果が期待できる
マイクロ法人になることで、節税効果が期待できます。
具体的には、「法人税率の低さ」と「経費の範囲の広さ」という2つの点で、個人事業主よりも有利になります。以下、それぞれについて詳しく説明します。
法人税率は個人事業主の所得税率より低い
個人事業主の所得税率は、所得金額に応じて5%から45%の7段階の累進税率が適用されます。
所得(1,000円未満切り捨て |
税率 |
控除額 |
1,000円~194万9,000円 |
5% |
0円 |
195万円~329万9,000円 |
10% |
9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 |
20% |
42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 |
23% |
63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 |
33% |
153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 |
40% |
279万6,000円 |
4,000万円~ |
45% |
479万6,000円 |
一方、法人税率は年間所得800万円以下の部分で15%、800万円超の部分で23.2%と、個人事業主の所得税率に比べて低くなっています。
たとえば、年間所得が500万円の場合、個人事業主の所得税率は20%ですが、マイクロ法人の法人税率は15%です。この場合、マイクロ法人になることで、税負担を5%分軽減できることになります。
経費の範囲が広がる
個人事業主の場合、経費として認められる範囲が限定的ですが、マイクロ法人になることで、経費の範囲が広がります。たとえば、以下のような費用を経費として計上できるようになります。
経費の種類 |
概要 |
役員報酬 |
給与(役員報酬)として支給すると法人の経費として計上できる(条件あり) |
接待交際費 |
定額控除限度額の年間800万円までは全額を損金算入できる |
家賃 |
社宅として取り扱うことによって住居部分のおおむね50%にあたる賃料を経費として計上できる場合がある |
生命保険の保険料 |
役員や従業員を被保険者とする生命保険の保険料は、所定の要件をみたせば経費として計上できる |
自動車保険の保険料 |
法人で購入した自動車の自動車保険の保険料を経費として計上できる |
出張手当 |
役員や従業員の出張手当を経費として計上できる |
このように、マイクロ法人になることで、経費の範囲が広がり、節税効果を得られる可能性が高くなります。特に、事業規模が大きくなるほど、節税効果も大きくなります。
社会保険料を抑えられる
マイクロ法人になると、自分の役員報酬額を自由に決められます。そこで、自分の報酬額を低めに設定することで、社会保険料の負担を減らすことが可能です。
たとえば、個人事業主の時に年収800万円だった人が、マイクロ法人にして自分の役員報酬を年300万円に設定したとします。すると、社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は年間約59万7,000円です(40歳未満の場合)。
年収800万円の個人事業主は国民年金だけでも20万3,760円で、国民健康保険料を合わせると100万円を超えます。この金額を比べるだけでも、社会保険料の負担を抑えられることがわかります。
マイクロ法人はそれに加え、さらに個人の負担分を抑えられるというメリットがあります。というのも、個人事業主の場合、事業主本人の社会保険料(国民健康保険料と国民年金保険料)は全額自己負担です。一方、マイクロ法人の場合、社会保険料は会社と個人で折半して負担します。これにより、個人の負担分を抑えられるのです。
なお、国民健康保険料は地域によって大きく違うため、実際にどれくらい抑えられるかは必ず確認してください。
参照|協会けんぽ 令和6年度保険料額表(令和6年3月分から・東京都)
社会的な信用を得やすい傾向がある
個人事業主と比べて、法人は社会的信用度が高いといえます。これは、法人化することで、事業の継続性や安定性が高まると認識されているためです。
たとえば、取引先や金融機関は、法人との取引を好む傾向があります。また、個人事業主の場合、事業主個人の信用力が重視されますが、法人の場合は、事業自体の信用力が評価されます。
さらに、法人化することで、事業の継続性が高まると認識されやすいため、長期的な取引関係を築きやすくなります。
マイクロ法人の設立を検討する場合の注意点
マイクロ法人の設立を検討する際には注意点があります。
ここでは、以下の3つの観点から、マイクロ法人設立の注意点を詳しく説明します。
- 設立および維持のコスト
- 事務作業の増加
- 売上がない場合の費用負担
設立および維持のコスト
マイクロ法人を設立するには、一定の費用が必要です。主な設立費用は以下の通りです。
コストの種類 |
概算金額 |
定款認証費用 |
5万円程度 |
登記費用 |
15万円程度 |
税理士報酬 |
月額5万円程度 |
各種届出費用 |
数万円程度 |
株式会社を設立する場合、合計で25万円程度の設立費用がかかります。合同会社であれば費用はもう少し安く済みます。また、設立後も、税理士への報酬や法人税などの維持コストが発生します。
設立費用と維持コストを合わせると、初年度で50万円から100万円程度の費用負担が生じる可能性があります。個人事業主から法人化する場合、これらの費用負担を収益で賄えるかどうかを慎重に検討することが重要です。
事務作業の増加
個人事業主から法人化することで、事務作業が増加します。特にマイクロ法人の場合、以下のような事務作業が発生します。
- 会計・経理作業
- 税務手続き
- 労務管理
マイクロ法人では、決算書の作成や法人税・消費税の申告など、個人事業主にはない税務手続きが必要になります。また、役員報酬に対する源泉所得税の管理や、代表者自身の社会保険加入手続きも発生します。
これらの事務作業は、個人事業主の時には発生しなかったものが多いため、負担増になる可能性があります。事務作業を自分で行うか、外部に委託するかを検討し、適切に対応することが重要です。
売上なしでも費用がかかる
マイクロ法人を設立すると、売上がない状況でも一定の費用が発生します。
たとえば、法人住民税の均等割は売上に関係なく毎年支払う必要があり、赤字でも年7万円程度の負担が生じます。また、代表者自身の役員報酬とこれに対する社会保険料も、売上に関係なく毎月発生します。
さらに、会計や税務を外注する場合は、会計事務所や税理士への報酬が必要になります。加えて、事務所を構える場合は、賃料や光熱費、通信費などの維持費が売上に関係なく発生します。
これらの費用は、法人化した場合は固定費化するため、売上がない状態でも負担が生じることを理解しておく必要があります。
個人事業主がマイクロ法人に移行する場合に必要な手続き
個人事業主がマイクロ法人に移行する際には、一定の手続きが必要です。以下でマイクロ法人の設立手続き、個人事業の廃止手続き、個人事業の資産・負債の引継ぎという観点から、移行に必要な手続きを詳しく説明します。
マイクロ法人の設立手続き
法人化を決めたら、マイクロ法人の設立手続きを行います。主な手続きは以下の通りです。
定款の作成
定款は会社の基本ルールを定めた重要な書類で、設立登記の際に必要です。以下の表のように、会社の基本情報と運営に関する事項を記載します。
項目 |
内容 |
会社名(商号) |
会社の名称 |
事業目的 |
会社が行う事業の内容を具体的に記載 |
本店所在地 |
会社の本社の住所 |
設立時の資本金 |
会社設立時の資本金の額 |
発行可能株式総数 |
発行できる株式の総数 |
機関設計 |
取締役会や監査役の設置の有無など会社の機関構成 |
決算期 |
会社の決算期(会計年度の終了日) |
定款は紙ベースまたは電子定款で作成します。
電子定款なら印紙税(4万円)がいりません。法務省のオンライン申請システムを利用して承認作業を行います。一方、紙ベースの場合は公証役場での認証が必要です。どちらも約5万円の手数料がかかります。
合同会社の場合は公証役場での認証は不要です。したがって、株式会社よりも合同会社のほうが設立コストが低くなっています。
設立登記の申請
設立登記とは、会社を法務局に登記することで、法人として正式に認められる手続きです。設立登記には、以下の必要書類を準備します。
- 定款(認証済みの定款、電子定款の場合はPDFファイル)
- 発起人の同意書(会社設立者が資本金の払い込みを行ったことを証明する書類)
- 就任承諾書
- 設立時取締役選任及び本店所在地決議書
- 設立登記申請書(法務局に提出)
会社設立前に、発起人が資本金を銀行口座に払い込み、その証明書を準備します。必要書類を揃えて法務局に設立登記を申請します。その際、登録免許税として資本金の0.7%(最低15万円)が必要です。
法務局での審査が終了すると、会社設立が完了します。
税務署への届出
会社設立後、法人として事業を開始するためには、以下の書類を税務署に提出する必要があります。
提出書類 |
提出期限 |
内容 |
法人設立届出書 |
会社設立日から2ヵ月 |
会社の基本情報や事業内容を記載 |
青色申告の承認申請書 |
会社設立から3ヵ月以内、もしくは設立初年度の事業年度終了日のいずれか早い日 |
青色申告を行うための申請書 |
給与支払事務所等の開設届出書 |
設立日から1ヵ月
(従業員や役員に給与を支払う場合)
|
給与支払事務所の開設を届け出る書類 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 |
設立後随時 |
従業員が少ない場合、源泉所得税の納付を年2回にするための申請書 |
法人事業概況説明書 |
法人設立届出書と一緒に提出 |
会社の事業内容や規模を説明する書類 |
また、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するための手続きも必要です。
個人事業を廃止する場合
法人化に伴い個人事業を廃止する場合は手続きが必要です。まず、廃業日から1ヶ月以内に税務署に個人事業の廃業届を提出します。
次に、確定申告を青色申告で行っていた場合は、個人事業の廃業届と一緒に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を税務署に提出します。さらに、課税事業者であった場合は、廃業に伴う「事業廃止届出書」も提出が必要です。
これらの手続きを漏れなく行うことで、個人事業を正式に廃止し、法人としての新たな事業をスタートできます。
個人事業の資産・負債の引継ぎ
マイクロ法人で法人化する際、個人事業の資産・負債の引継ぎは、適切な手続きと会計処理が必要です。資産の引継ぎ方法には、売買、現物出資、貸付の3つがあります。
売買は個人事業主が会社へ資産を売却する方法で、売買契約書の作成や消費税の処理が必要です。
現物出資は資産を会社に出資する方法で、会社設立時に行うことが一般的であり、手続きが比較的簡単です。
貸付は資産を会社へ貸し付ける方法で、賃貸借契約書の作成が必要であり、会社は個人事業主へ賃料を支払います。
負債の引継ぎには、重畳的債務引受と免責的債務引受の2つの方法があります。
重畳的債務引受は、個人事業主と法人が共同で債務を負う方法で、債権者との契約変更が必要です。
一方、免責的債務引受は、法人が個人事業主の債務を引き継ぎ、個人事業主は債務を免れる方法で、こちらも債権者との契約変更が必要となります。
まとめ
個人事業主がマイクロ法人に移行する際の手続きについて解説しました。
マイクロ法人への移行は、節税や信用力の向上などのメリットがある一方で、設立コストや事務負担の増加などの注意点もあります。
自身の事業の規模や将来の展望を踏まえて、マイクロ法人への移行が適しているかどうかを慎重に検討する必要があります。移行を決めた場合は、本記事で解説した手続きを漏れなく行うことが重要です。