出張手当とは?節税、社会保険料を節約し手取りを増やせる方法について解説
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出張手当は、会社の役員・従業員が出張した場合に所定の額を支給する制度です。日本では、所得が増えるほど税金・社会保険料の負担が大きくなります。そこで、役員・従業員の手取りを増やすために活用を検討したいのが出張手当の制度です。役員・従業員個人だけでなく、会社にとっても経費を効率的に計上でき、しかも消費税の節税にもなります。本記事では、出張手当の制度を設けるメリットと注意点、導入の手続等について解説します。
目次[非表示]
- 1.出張手当とは?
- 2.出張手当のメリット
- 2.1.所得税・住民税が軽減され個人の手取りが増える
- 2.2.会社と個人ともに社会保険料を節約できる
- 2.3.会社の消費税の節税になる
- 2.4.経費精算のコストを節約できる
- 2.5. 「一人社長」「マイクロ法人」でも導入できる
- 3.出張手当を導入する場合の注意点
- 4.出張手当の相場(交通費、宿泊費も)
- 5.出張手当を導入する方法
- 6.まとめ
出張手当とは?
出張手当とは、会社の社長・役員や従業員がある遠方に出張した場合、「交通費」と「宿泊費」以外に、規程に従って所定の金額を「手当」として支給する制度のことです。
出張はおおむね片道100kmを超える距離の移動を伴う場合をさします。
出張手当には、出張に伴って「交通費」と「宿泊費」以外で個人が負担する雑多な経済的負担をカバーする役割があります。
たとえば、出張先では、食事したり、飲み物を買ったり、待ち時間を過ごすためカフェ等に入ったりと、通常の勤務では発生しない様々な費用がかかります。それらをすべて個人に自己負担させるのは酷な面があります。また、いちいち個人が申告して会社が経費として認められるかの判断を行うのは煩雑です。
さらに、遠方への出張はそれ自体、通常の勤務よりも体力と気力を消耗します。
そこで、あらかじめ会社で一定のルールを設け、それにしたがって所定の金額を支給するのが出張手当の制度です。
出張手当のメリット
出張手当の制度は、特に出張が多い会社にとって有効です。出張手当には以下の5つのメリットがあります。
【出張手当のメリット】
- 所得税・住民税が軽減され個人の手取りが増える
- 会社と個人ともに社会保険料の節約になる
- 会社の消費税の節税になる
- 経費精算のコストを節約できる
- 「一人社長」でも導入できる
所得税・住民税が軽減され個人の手取りが増える
出張手当を導入すると、所得税・住民税が軽減され、手取りが増える効果があります。
なぜなら、出張手当は給与扱いされず、所得税・住民税が課税されないからです。したがって、出張手当を導入し、代わりにその額の分だけ給与の額を減らせば、所得税・住民税も軽減されるのです。
会社と個人ともに社会保険料を節約できる
前述のように、出張手当は給与扱いされません。したがって、「標準報酬月額」を基準として算定される社会保険料の対象にもなりません。
そこで、出張手当の導入と引き換えに、その分だけ給与を減らせば、会社と個人ともに社会保険料の節約になります。
個人にとっては、所得税・法人税に加えて社会保険料も削減できるので、実質的に手取りを増やすことができます。
会社の消費税の節税になる
出張手当は、消費税の計算上「課税仕入れ」に該当します。これによって、消費税の節税にもなります。
どういうことかというと、消費税の計算は、売上高に含まれる消費税額(受け取った消費税額)から、経費に含まれる消費税額(支払った消費税額)を差し引いて行います。これを「仕入税額控除」といいます。
この計算の対象となる経費を「課税仕入れ」といいます。そして、日本国内への出張に対する出張手当は「課税仕入れ」にあたります。
したがって、出張手当については、そこに含まれる消費税相当額を、上述の「仕入税額控除」の計算に含め、差し引くことができるのです。なお、2023年10月から、仕入税額控除を行うには原則としてインボイス(適格請求書)が必要になりましたが、出張手当はインボイス制度の対象外です。
経費精算のコストを節約できる
出張手当の制度は、あらかじめ定めた出張旅費規程に従って経費精算を行うものです。したがって、経費精算の事務が簡略化され、コストを節約することができます。
「一人社長」「マイクロ法人」でも導入できる
出張手当を導入できる会社の条件について、特に法令の規制はありません。したがって、いわゆる「一人社長」「マイクロ法人」でも導入することができます。
特に、コンサルタント業や通訳業など、あちこち飛び回ることが多い場合には、出張手当を支給して、その分だけ自身の給与(定期同額給与)、ボーナス(事前確定届出給与)を抑えることで、大幅な手取り増加につながる可能性があります。
出張手当を導入する場合の注意点
このように、出張の多い会社で出張手当を導入すると、会社にとっても個人にとっても大きなメリットを得られる可能性があります。しかし、他方で、注意しなければならない点もあります。
【出張手当を導入する場合の注意点】
- 金額によっては税務調査で指摘される可能性がある
- 従業員の納得を得られない可能性がある
金額によっては税務調査で指摘される可能性がある
まず、金額によっては税務調査で指摘され、最悪の場合、追徴される可能性があります。
出張手当は、前述の通り、出張に伴って個人にかかる経済的負担をカバーするためのものという建前があります。したがって、常識的な範囲内の金額に設定する必要があります。
もし、税務調査等で不相当に高額だとみなされると、否認され、その分の税金を追徴されるおそれがあります。
どれくらいの額に設定すればよいかは、「出張手当の相場」で解説します。
従業員の納得を得られない可能性がある
出張手当は、個人の所得税・住民税、社会保険料を抑えて手取りを増やす効果があります。ただし、給与の額を減らしてその分を出張手当で代替させる場合、従業員の納得を得られない可能性があります。
したがって、もし、出張手当の導入と引き換えに給与の額を減らす場合には、その理由や得られる効果について十分な説明を行い、従業員に十分に理解してもらった上で行う必要があります。
また、同じ会社の中で職種によって出張の頻度が異なる場合には、出張手当の導入によって職種ごとの不公平が生じないよう、特に注意が必要です。
出張手当の相場(交通費、宿泊費も)
前述したように、出張手当は常識的な範囲内の額に設定する必要があります。では、出張手当の相場は、どのくらいと考えるべきでしょうか。以下、「交通費」「宿泊費」も合わせて解説します。
出張手当の相場
多くの会社では、「日帰り出張」と「宿泊を伴う出張」とで別々に設定し、「宿泊を伴う出張」の方が金額を大きくなるように定められています。
また、役職ごとに出張手当の額に差を設けています。
役職ごとの出張手当の目安については、「産労総合研究所」の「国内・海外出張旅費に関する実態調査」が参考になります。2023年の調査結果によれば「日帰り出張」「宿泊を伴う出張」のそれぞれで支給額の平均は以下の通りです。
社長 |
専務 |
常務 |
平取締役 |
部長級 |
課長級 |
係長級 |
平社員 |
3,693円 |
3,266円 |
3,213円 |
3,044円 |
2,335円 |
2,203円 |
2,032円 |
1,963円 |
国内・海外出張旅費に関する実態調査(2023年) |産労総合研究所(e-sanro.net/)
社長 |
専務 |
常務 |
平取締役 |
部長級 |
課長級 |
係長級 |
平社員 |
4,362円 |
3,698円 |
3,616円 |
3,476円 |
2,688円 |
2,550円 |
2,371円 |
2,309円 |
国内・海外出張旅費に関する実態調査(2023年) |産労総合研究所(e-sanro.net/)
これらを基に、出張手当の額はおおむね以下の金額を限度として設定することをおすすめします。
社長 |
その他役員 |
部課長級 |
係長級以下 |
4,000円 |
3,500円 |
3,000円 |
2,000円 |
|
社長 |
その他役員 |
部課長級 |
係長級以下 |
国内 |
5,000円 |
4,500円 |
3,500円 |
3,000円 |
海外 |
10,000円 |
8,000円 |
6,000円 |
5,000円 |
なお、これらの額を超えたとしても、直ちに税務署から指摘され追徴課税されるというわけではありません。あくまでも一応の目安とお考え下さい。
交通費の設定方法
交通費については実費精算の方式をとります。ただし、役職に応じて新幹線の「グリーン車」や飛行機の「ビジネスクラス」を利用できるようにするなど、差を設けることができます。
宿泊費の設定方法
宿泊費については、一定の額を支給し、その範囲内で宿泊代金を賄うよう定めることが多くなっています。また、出張手当と同様、役職ごとに差を設けることができます。
「産労総合研究所」の2023年の「国内・海外出張旅費に関する実態調査」の結果によると、国内での宿泊費の水準は以下の通りです。
社長 |
専務 |
常務 |
平取締役 |
部長級 |
課長級 |
係長級 |
平社員 |
14,475円 |
13,349円 |
10,195円 |
9,198円 |
10,195円 |
9,710円 |
9,319円 |
9,198円 |
国内・海外出張旅費に関する実態調査(2023年) |産労総合研究所(e-sanro.net/)
これを考慮すると、宿泊費の額はおおむね以下の金額を限度として設定することをおすすめします。
社長・役員 |
部課長級 |
係長級以下 |
15,000円 |
12,000円 |
10,000円 |
ただし、昨今はインバウンドの急増により、たとえば仙台など、宿泊費が高騰しているエリアもあります。そこで、宿泊料金がやむを得ず支給額を上回る場合には、差額を会社が負担する旨も定めておく必要があります。
出張手当を導入する方法
出張手当の制度を導入するには、「出張旅費規程」を作成して出張手当、交通費、宿泊費についての基準等を定め、それを基に申告させるようにする必要があります。
出張旅費規程の整備
まず、出張旅費規程を作成し、株主総会の決議により承認を受ける必要があります。
出張旅費規程の内容として、出張手当、交通費、宿泊費について出張の種類ごと、役職ごと等に明確な基準を示すことはもちろん、精算・支給の手続きについても詳しく規定しておく必要があります。
精算・支給の手続きにおいては、「期間」「目的地」「用件・相手方」「日程」等についても詳しく申請させるようにします。このことは、社内のコンプライアンスの見地からだけでなく、税務調査への備えとしてもきわめて重要です。
出張旅費規程の定め方については各種ひな型がインターネット上や書籍で簡単に手に入るので、それらを参考に文案を作成したうえで、顧問税理士や社会保険労務士にチェックしてもらうことをおすすめします。
でき上がった出張旅費規程は就業規則の一部なので、発効させるには株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の承認を得る必要があります。また、労働基準監督署に届け出る義務があります。
社内への周知と説明
次に、会社の役員・従業員全員に対し、出張旅費規程を作成して出張手当の制度を設けた旨を周知し、かつ、利用方法について説明します。
特に、出張手当の導入に伴い給与体系を変更する場合には、従業員の納得を得られるよう、制度導入の目的や、個人の実質的な手取りの増加等のメリットについて、十分に説明する必要があります。
まとめ
出張手当の制度は、特に出張の多い会社にとっては、個人の所得税・住民税の節税と社会保険料の削減につながり、導入のメリットが大きいものです。従業員のいないいわゆる「一人社長」も利用できます。
出張手当の額は、「日帰り出張」「宿泊を伴う出張」それぞれについて、また、役職ごとに、世の中の一般的な相場を踏まえて常識的な額に設定することをおすすめします。
導入する場合には、支給基準、支給の手続等について定めた「出張旅費規程」を作成する必要があります。また、給与体系の変更を伴うことがあるので、従業員に対し十分に説明して理解を得ることが大切です。