法人で株式投資をするメリットはない?節税効果の検証とデメリットの解説
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個人事業主で大きな利益が上がるようになったら、法人化した方が節税になるケースがあるといわれます。では、株式投資も法人で行った方が良いのでしょうか。法人化のメリットとされていることと、株式投資にもそれがあてはまるのかについて、デメリットにも触れながら解説します。
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一般的な「法人化」のメリットは株式投資にあてはまるか?
まず、個人事業主ではなく法人になった場合に一般的にメリットとされている点について、株式投資をする場合にあてはまるか検証します。
詳細には立ち入りませんが、一般に、所得が900万円を超えると法人化した方が有利になるといわれています。そして、法人化の一般的なメリットとして挙げられるものは、主に以下の4つです。
【法人化の一般的なメリットとされるもの】
- 法人税の税率の上限が所得税よりも低い
- 他の事業で生じたマイナスを通算できる
- マイナスが出たら向こう10年間差し引ける
- 家族に役員報酬を支給し所得を分散できる
- 個人よりも費用計上できるものの範囲が広い
では、これらは法人で株式投資をする場合にもあてはまるでしょうか。
以下、それぞれについて検証します。
法人化のメリット検証1|法人税の税率の上限が所得税よりも低い?⇒×
まず、法人化のメリットとして一般的に挙げられるのは、法人税の税率の上限が所得税よりも低いということです。
すなわち、所得税も法人税も、所得が上がるごとに段階的に税率が上がる「超過累進税率」を採用しています。そして、原則として、所得税の税率は住民税と合わせて約55%が上限であるのに対し、法人税は地方税と合わせて最高で約33%にとどまります。これが、法人化した方が有利といわれるゆえんです。
しかし、株式投資についてはこのことがあてはまりません。
なぜなら、個人の株式の配当や譲渡益については税率が一律20.315%となっているからです。また、他の所得と分けて税金が計算されます(分離課税)。法人税の税率よりも低いということです。
したがって、税率の面からは、決して法人にメリットがあるとはいえません。
なお、株式投資でも、長期投資して配当金による利益を受け取るために保有している株式については、受け取った配当金の20%の額は益金に算入されないことになっています(受取配当金等の益金不算入の制度)。しかし、本記事で想定しているのは株式を短期で売却して利益を得る目的も含む株式投資なので、この制度は想定外と考えておきます。
法人化のメリット検証2|他の事業で生じたマイナスを通算できる?⇒△
法人化のメリットとして、他の事業で生じたマイナスを通算できるとされます。しかし、この点についても、顕著なうま味はありません。
どういうことか、順を追って説明します。
■個人の場合「損益通算」は認められない
個人の場合、所得が10種類に区分されており、異なる所得の間でプラスマイナスを通算すること(損益通算)は原則として認められていません。例外として、「不動産所得」「事業所得」「山林所得」「譲渡所得」でマイナスが出た場合、他の所得との損益通算が認められています。
しかし、株式の譲渡益や配当利益は、前述のように一律20.315%の分離課税の対象なので、他の所得でマイナスが生じても、損益通算できません。
■法人はすべての所得が通算されるが…
これに対し、法人の場合、そもそも所得の区別がなく、すべて通算して損益が計算されます。したがって、この点だけみれば、個人よりもメリットがあるととらえることも不可能ではないかもしれません。
しかし、前述のようにそもそも法人の場合、いわゆる含み益への課税もなされるうえ、税率が高く、しかも利益が上がっていなくても法人住民税が課税されるというデメリットもあります。
それらを考慮に入れると、すべての所得が通算されることは、法人で株式投資を行うメリットとして敢えて取り上げる価値があるとは考えられません。
法人化のメリット検証3|マイナスが出たら向こう10年間差し引ける?⇒△
法人化の一般的なメリットとして、マイナスが出たら、その後10年間にわたってプラスから差し引けるということが挙げられます(繰越控除)。
すなわち、個人の場合、株式の譲渡損失について、繰越控除が認められるのは向こう3年間のみです。これに対し、法人の場合は株式の譲渡損失・含み損について10年間にわたり繰越控除が認められるのです。
この点は確かにメリットといえなくもありません。しかし、このメリットが顕在化するのは、3年かけても控除しきれないほどの大きなマイナスが発生したというイレギュラーな場合のみです。そのような場合は、法人化以前に投資の素養・スキルが疑われます。
しかも、含み益への課税がなされる点、税率が高い点、損益と無関係に法人住民税が課税される点を考慮すると、損益通算と同様、敢えて法人で株式投資を行うメリットとして強調する価値があるか疑問です。
法人化のメリット検証4|家族に役員報酬を支給し所得を分散できる?⇒△
法人化の一般的なメリットとして、家族を役員にして給与を支給し所得を分散できるということもいわれます。
すなわち、法人の場合、家族を役員にして、毎月同じ額の役員報酬を支給すれば、「定期同額給与」として損金算入が認められます。
しかし、事実上、役員報酬として損金算入が認められる額は限られます。 なぜなら、家族が株式投資で重要な役割を果たすことは考えにくく、また、株式投資以外の法人の業務も限られているからです。
さらに、そもそも法人の株式投資は個人よりも税率が高くなっています。しかも、社会保険料の支払義務も生じます。その上、役員報酬を受け取った家族にも課税が発生します。
したがって、家族に役員報酬を支払えることは、株式投資を法人で行うメリットとして敢えて挙げるには心もとないといわざるを得ません。
法人化のメリット検証5|個人よりも費用計上できるものの範囲が広い?⇒△
法人化する場合、様々な費用(損金)を計上することによって節税効果が得られるとされています。
詳細には立ち入りませんが、たとえば、以下のような費用です。
【法人化する場合に計上できる費用】
- 家賃(事業に使用する割合のみ)
- 光熱費(事業に使用する割合のみ)
- パソコン・ソフトウェア(減価償却費または消耗品費)
- 関連書籍の購入代金
- 生命保険の保険料
- 経営セーフティ共済の掛金
これらについては、大きな利益を毎年コンスタントに計上し続けられるのであれば、法人で株式投資をするのはメリットとなり得るかもしれません。
しかし、コンスタントに利益を上げ続けることは実際には至難の業です。また、ここまで検証してきたことを含めて総合的に考慮すると、すべてのケースでメリットといえるわけではありません。
法人で株式投資をするデメリット
このように、法人で株式投資を行うメリットといわれていることを検証すると、メリットは小さいといわざるを得ません。また、法人化にはデメリットもあります。
主なデメリットとして、以下の2点を指摘しておきます。
- 含み益にも課税されてしまう
設立・維持の費用がかかる
法人で株式投資をするデメリット1|含み益にも課税されてしまう
個人の場合、実際に売却しなければ利益は発生しません。しかし、法人の場合は期末に含み益があればその含み益に課税されてしまいます。
法人で株式投資をするデメリット2|設立・維持の費用がかかる
法人を設立する場合、以下のように、設立、維持のための費用がかかります。
【法人の設立にかかる費用】
- 登録免許税
- 法務局に支払う手数料・収入印紙代
- 不動産を資産管理会社に移転(現物出資)する場合の登記費用
- 司法書士への報酬
【法人の維持にかかる費用】
- 税理士への報酬
- 法人住民税(年7万円)
- 社会保険料
税理士への報酬については、自分で帳簿をつけ、確定申告をすれば不要です。しかし、法人は収益が上がらなかった年度でも必ず法人住民税(7万円)を納税する義務があります。また、社会保険料の支払義務も生じます。
まとめ
所得が大きくなったら、法人化した方が税制面で有利になるといわれます。しかし、株式投資については、法人化のメリットとして一般的に挙げられるものは、必ずしもあてはまりません。
特に、税率については個人(所得税)の方が法人(法人税)よりも低くなっており、また、法人の場合は現実化していない含み益にも課税されるという特殊性があります。また、その他についても、検証を加えると、メリットが事実上乏しかったり、限定的であったり、ケースバイケースであったりします。
多くの場合、株式投資は法人ではなく個人で行うほうがベターであるといえます。コンスタントに大きな利益を上げていけることが確実であるなど、判断に迷う場合は、税理士等の専門家に相談することをおすすめします。