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タワマン節税はもう使えない?相続税の節税効果、税制改正の内容ほか注意点を解説

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タワマン節税(タワーマンション節税)は、タワーマンションの高層階の市場価格よりも相続税評価額が著しく低いことを利用して相続税を抑えるスキームです。ごく最近まで富裕層の相続税対策として人気を博してきました。しかし、昨今、国税庁の通達によるルール改定が相次ぎ、その効果は大きく制限されてきています。本記事では、タワーマンション節税のしくみ、直近の税制改正の内容、今なお有効なのか、といった点について、最新の判例にも触れながら解説します。

目次[非表示]

  1. 1.タワマン節税(タワーマンション節税)とは
    1. 1.1.高層階の相続税評価額が低いのを利用
  2. 2.タワマン節税が問題視された理由
    1. 2.1.タワマン節税は法の趣旨を逸脱?2022年4月最高裁判決から見える問題点
  3. 3.税制改正(通達改定)による新ルールとは
    1. 3.1.第1段階|乖離率を算出する
    2. 3.2.第2段階|評価水準を算出する
    3. 3.3.第3段階|評価水準に応じて補正を行う
  4. 4.まとめ

タワマン節税(タワーマンション節税)とは

タワマン節税(タワーマンション節税)とは

タワマン節税とは、タワマンの高層階の住戸の実際の価値(実勢価格)よりも、相続税の算定の基礎となる「相続税評価額」が低いことを利用して、相続税を抑えるというものです。

相続税の計算は、相続される人(被相続人)の資産である相続財産のそれぞれについて「相続税評価額」を算出し、合計し、そこに相続税の税率をかけます。

相続税の税率は「超過累進税率」といって、相続財産が多くなるほど段階的に高い税率が適用されます。したがって、相続税対策で一番の肝は、個々の財産の相続税評価額をいかに抑えるかということになります。

相続税評価額は、国税庁の「財産評価基本通達」で細かく定められています。そして、不動産(土地と建物)は評価額が低く抑えられているのです。

その趣旨は、不動産は生活や事業の場となることが多い資産であり、そのような資産に高い税負担を負わせるのは酷だということにあります。

タワマン節税は、そのことをフルに利用した方法といえます。

高層階の相続税評価額が低いのを利用

タワマン節税は、マンションの高層階の相続税評価額が、実勢価格よりも著しく低いことを利用したスキームです。
 
国税庁の「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」の2023年1月31日の報道発表資料によると、東京都、福島県、広島県でそれぞれ以下のように実勢価格と相続税評価額が大きく乖離していました。

【マンションの市場価格と相続税評価額の乖離の例】

所在地

総階数

所在階

築年数

専有面積

市場価格

相続税評価額

乖離率

東京都

43階

23階

9年

61.17㎡

1億1,900万円

3,720万円

3.20倍

福岡県

9階

9階

22年

78.20㎡

3,500万円

1,483万円

2.36倍

広島県

10階

8階

6年

71.59㎡

2,240万円

954万円

2.34倍

マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議資料(2023年1月31日)|国税庁(nta.go.jp)


このように大きな乖離が生じるのはなぜでしょうか。

マンションは建物と土地からなります。そこで、以下、建物と土地のそれぞれについて、相続税評価額の計算方法を説明します。

■建物の相続税評価額

建物の相続税評価額は、固定資産税評価額です。固定資産税評価額は市区町村が個別に定めており、毎年贈られてくる納税通知書の「課税証明書」に記載されています。おおむね新築価格の60%程度です。

そして、かつては、マンションの建物の相続税評価額は、建物全体の価格を各住戸の床面積に応じて均等に割り振っていました。

マンションは高層階ほど市場価格が高くなりますが、この計算方法だと、低層階も高層階も床面積ごとの価格が同じ額になります。つまり、高層階ほど、実際の市場価格と相続税評価額との乖離が大きくなり、相続税の負担が低く抑えられるということです。

したがって、富裕層にとって、タワマンの高層階の住戸を所有することが、きわめて有効な相続税対策になってきたということです。

しかし、これを国税庁が問題視せず放置するわけがありません。後述するように、近年、通達の改定という形でルール改定がなされるに至っています。

■土地の相続税評価額

土地は基本的に「路線価」で評価されます。路線価がない場合は「倍率方式」によって評価されます。だいたい実勢価格の70~80%程度です。

また、タワマンに自分で住むのではなく賃貸に出す場合には「貸家建付地」といってさらに評価額が抑えられます。

【貸家建付地の評価額の計算式】

 更地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合)

この計算式に出てくる「借地権割合」は国税庁HPで公開されています。

「賃貸割合」は実際に賃貸に出されている住戸の床面積の割合で、満室ならば100%となります。

これらに加え、「小規模宅地等の特例」が適用されれば、所定の面積を上限としてさらに評価額が抑えられます。以下の通りです。

【小規模宅地等の特例】

  • 自分で居住している場合(特定居住用宅地):80%減(330㎡まで)
  • 他人に賃貸している場合(貸付事業用宅地):50%減(他の物件と合わせて200㎡まで)

タワマンの場合、住戸が多いので、各住戸に対応する土地の面積が狭くなっています。したがって、小規模宅地等の特例の面積の上限の範囲内におさまりやすいといえます。

また、タワマンの高層階の居室をたくさん購入してすべて賃貸に出せば、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地)のメリットを大いに享受することも可能です。

なお、建物と違って、土地は高層階と低層階とでメリットに差はありません。 

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タワマン節税が問題視された理由

タワマン節税が問題視された理由

このように、タワマン節税は、高層階の建物・土地いずれも相続税評価額が実勢価格より大幅に低くなることを利用したスキームだといえます。

しかし、タワマン節税のスキームは問題視されるようになりました。

国税庁や、タワマン節税に批判的な立場からの指摘はこうです。本来、不動産の相続税の負担が軽減されている趣旨は、前述のとおり、不動産が生活の場や事業の場になっているからです。それなのに、富裕層がことさらに相続税の負担を軽くするためだけに敢えてタワマンを購入するというのは、制度の趣旨を逸脱したものだというのです。

タワマン節税は法の趣旨を逸脱?2022年4月最高裁判決から見える問題点


この点について、親から相続したタワマンについて税務署長が行った追徴課税処分の適法性が争われた裁判で、最高裁判所が下した判決を紹介します。

事案の概要は、以下の通りです。

【最判令和4年4月19日(相続税更正処分等取消請求事件)の事案の概要】

  1. 被相続人(A)が、亡くなる1ヵ月前に合計10億800万円の借入をして、8億3,700万円のマンション甲と5億5,000万円のマンション乙を購入した
  2. 相続人(B)が、相続開始から約9ヵ月後にマンション甲を5億1,500万円で売却した
  3. Bが相続税の納税申告の際、本記事で解説した前述の不動産の評価方法を用いて、マンション甲を2億4万1,474円、マンション乙を1億3,366万4,767円として、相続税を計算し、相続税総額0円として申告した
  4. 税務署長は、マンション乙を7億5,400万円、マンションBを5億1,900万円と評価して税額を計算し直し(相続税総額2億4,049万8,600円)、Bに対し約3億円の追徴課税の更正処分を行った

この事案について、最高裁は、マンション甲とマンション乙がもっぱら相続税対策のためだけに購入されたことが明らかであるとして、国税庁の処分を有効としました。

Aの意思を推認する根拠となる事実として、Aが生前にマンションの購入資金の借入をする際の銀行の稟議書に「相続税対策として増え動産を購入するための資金」と記載されていたこと等が認定されました。

この判決は、従来のマンションの相続税評価額の算定方法自体を否定したものではありません。あくまでも、相続税対策のためだけにことさらマンションを購入したことが問題視されたものです。

マンションの相続税評価額のルール自体が適正なものかかという問題は、残されたままだったといえます。

最判令和4年4月19日(相続税更正処分等取消請求事件)|裁判所(courts.go.jp)

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税制改正(通達改定)による新ルールとは

税制改正(通達改定)による新ルールとは

国税庁は、実勢価格と相続税評価額の乖離を縮小するため、相次いで通達を改定してきました。直近の改定は2023年10月です。通達改定により示されたルールによると、手順は大きく以下の3段階です。

【通達の計算ルールの手順】

  1. 乖離率を算出する
  2. 評価水準を算出する
  3. 評価水準に応じて補正を行う

居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)|国税庁(nta.go.jp)

以下、計算ルールを各段階ごとに解説します。

第1段階|乖離率を算出する

まず、乖離率を算出します。計算式は以下の通りです。

【乖離率の計算式】

 乖離率=A+B+C+D+3.220

  • A:マンションの築年数×(-0.033)(1年未満は1年)
  • B:マンションの総階数指数(総階数÷33)×0.239(小数点以下第4位を切り捨てる)
  • C:マンションの住戸の専有部分の所在階×0.018
  • D:マンションの住戸の敷地持分狭小度×(-1.195)(小数点以下第4位を切り上げる)

第2段階|評価水準を算出する

次に、「評価水準」を以下の計算式によって算出します。

【評価水準の計算式】

 1÷乖離率

第3段階|評価水準に応じて補正を行う

最後に、評価水準に応じて相続税評価額の補正を行います。補正率は以下の通りです。

【補正率】

  • 評価水準が「0.6」未満の場合(乖離率1.67超):補正率=評価乖離率×60%
  • 評価水準が「0.6」~「1」の場合(乖離率1~1.67):補正なし
  • 評価水準が「1」超の場合(乖離率1未満):補正率=評価乖離率

特に重要なのは、乖離率が1.67を超えている場合に、相続税評価額を60%に抑える補正をするということです。

これは、統計上、1戸建ての乖離率が1.67倍だったのとバランスを合わせるものです。

なお、このルールは、2024年1月以降の相続等について適用されます。したがって、すでに相続対策としてタワマンを購入して保有しているケースも、対象となります。これにより、タワマン節税の効果は限定的になることが想定されます。

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まとめ

所得税の計算で重要な給与所得控除を徹底解説!

タワマン節税は、タワマンの高層階の市場価格(実勢価格)と相続税評価額の乖離を利用して、相続税を抑えるスキームです。しかし、2023年10月に国税庁が通達を改定し、従来のマンションの相続税評価額に補正が加えられることになりました。

これにより、今後、タワマン節税の効果は限定的なものになると想定されます。

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監修|筧 智家至(公認会計士・税理士)
監修|筧 智家至(公認会計士・税理士)
慶応義塾大学商学部卒。監査法人トーマツにて会計監査、株式上場支援、企業の経営改善支援に従事。平成24年筧公認会計士事務所(現:税理法人グランサーズ)を開設。常に現場に入り、経営者とともに課題に取り組み、経営者と常に相談しながら経営者のニーズに応え、解決策を導き出すことをモットーにしている。スタートアップ企業からIPO(上場)準備支援まで、あらゆる成長段階の企業のサポートをしており、税務会計顧問にとどまらない経営を強くするためのコンサルティングサービスに中小企業経営者の信頼と定評を得ている。東京商工会議所専門家エキスパート、セミナー実績多数。経営者向け人気YouTubeチャンネル「社長の資産防衛チャンネル」にも出演中。
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