法人税の実効税率とは?定義や計算方法、注意点をわかりやすく解説!
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法人税は法人の所得に対して課される税金であり、その税率は税法によって明確に規定されています。法人の手元に残る利益を計算するためには、税引前の利益ではなく、税引後利益の計算が必要です。
ただし、法人の所得にかかる税金は法人税以外にも存在します。そのため税法で定められた税率を用いて法人税の額だけを計算・税引前利益から差し引くのでは、税引後利益の正確な計算ができたことにはなりません。そこで用いられるのが、法人税の実効税率です。
本記事では法人税の実効税率について、計算方法や注意点などを詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.法人税の実効税率とは
- 1.1.実質的な負担となる法人税の税率
- 1.2.法人の所得に対してかかる税とは
- 1.3.表面税率との違い
- 2.法人税の実効税率の計算方法
- 2.1.実効税率の計算方法および計算例
- 2.2.参考:表面税率の計算方法・計算例
- 3.法人税の実効税率を計算する際の注意点
- 4.まとめ
法人税の実効税率とは
はじめに法人税の実効税率について解説します。実効税率の定義や、似た用語との違いなどを取り上げました。
実質的な負担となる法人税の税率
法人税の実効税率とは、法人の実質的な税負担率を意味します。
法人の所得に対して課される税金といえば、法人税をイメージする人が多いのではないでしょうか。法人税は税引前当期純利益(一切の税金を控除する前の利益)に法人税率を乗じて計算します。税引後利益は法人税を控除した金額と認識していると、法人の所得に対してかかる税率=法人税の税率というイメージになるかもしれません。
しかし法人の所得に対して課される税金は、法人税だけではありません。法人税のほかにも、法人住民税や事業税などの税金がかかります。このように税引前当期純利益からさまざまな税金を控除する必要があるため、法人の所得に対する法人の所得に対してかかる税率は法人税の税率とイコールではないのです。
また法人税・法人住民税と違い、法人事業税は損金に算入されます。したがって単純に各税金の税率を足しただけで実効税率を算出できるわけではありません。法人税の実効税率を求めるためには、やや複雑な計算が必要です。
なお実効税率と似た用語として、法定実効税率が挙げられます。法定実効税率は企業の所在する国や地域の法律で定められた税率を使って計算した実効税率です。単に実効税率と呼ぶ場合、所得に対する税金の割合を表すケースが多いです。
法人の所得に対してかかる税とは
実効税率は、法人の所得に対してかかる税を用いて計算します。ここでは法人の所得に対してかかる税の種類と、それぞれの違いについて解説します。
法人税:法人の所得に対して課される国税です。企業所在地を管轄する税務署に納付します。法人の規模や所得の大きさなどによって税率が異なります。
地方法人税:法人税に応じて課される国税です。地域間での税収の偏りを調整する目的で設定されています。法人税額に地方法人税の税率を乗じて計算、法人税と一緒に国に納め、国から自治体へと交付されます
・法人住民税:法人の事業所が所在する自治体に納める地方税です。
法人税額に応じて課税される法人税割と、資本金額や従業員数などの基準によって
一定額が課される均等割から構成されています。均等割は赤字でも発生するため、
所得がない年も必ず法人住民税は納付が必要です
・法人事業税:法人の事業所が所在する自治体に納める地方税です。
事業活動にあたって行政サービスを利用するため、行政サービスに必要な経費を
負担するべきという考えに基づいて設定されています
・特別法人事業税:令和元年度の税制改正によって、法人事業税の一部を分離する
形で新たに創設された国税です。
地域間での税収の偏りを調整する目的で設定されています。
なお国税ではありますが、法人事業税と同じ自治体への申告・納付が必要です
なお法人住民税・法人事業税といった地方税は、自治体によって税率が異なります。そのため実効税率を計算するためには、事業所のある自治体の税率を確認する必要があります。
表面税率との違い
実効税率と比較される形で多く登場する言葉のひとつが表面税率です。表面税率の概要と、表面税率・実効税率の違いを解説します。
表面税率は各税の法律で定められた税率を単純に総和したものです。先ほど紹介した法人税・法人地方税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税の税率を足した結果が表面税率となります。表面税率の計算では、事業税の損金算入は考慮されません。
表面税率は実際に発生する税額を算出する場面で用います。主な例として、税金の申告や納税額の計算時などが挙げられます。
一方で実効税率は、事業税の損金算入の分を反映する形で計算し直された税率です。事業税を損金算入することで課税所得が減少し、税負担も小さくなります。そのため実効税率のほうが表面税率よりも小さくなるのです。
実効税率は所得に対する実質的な税負担率を判断する際に用いられます。また前述した法定実効税率は、税効果会計の会計処理にも必要となります。
法人税の実効税率の計算方法
ここでは法人税の実効税率をどのように計算するか、例を用いながら説明します。参考材料として、表面税率の計算方法・計算例も取り上げました。
実効税率の計算方法および計算例
はじめに実効税率の計算方法です。実効税率は以下の計算式によって算出されます。
実効税率=法人税率×(1+地方法人税率+法人住民税率)+(法人事業税率+特別法人事業税率)/(1+法人事業税率+特別法人事業税率) |
事業税の損金算入を考慮するため、単純な税率の総和ではなく、上記のような計算が必要です。
具体的な数値として、資本金1億超の外形標準課税法人について、東京23区の税率を用いて計算します。それぞれの税率は以下のとおりです。
・法人税率:23.2%(資本金1億超の場合)
・地方法人税率:10.3%
・法人住民税率:10.4%(超過税率)
・法人事業税率:1.18%(外形標準課税法人の所得割 超過税率)
・特別法人事業税率:1%×260%=2.6%
こちらの数値を、先ほど紹介した計算式に当てはめていきます。
23.2%×(1+10.3%+10.4%)+1.18%+2.6%/1+1.18%+2.6%
=23.2%×1.207+3.78%/1.0378
=31.7824%/1.0378
≒30.62%
以上のように、東京23区の資本金1億超の外形標準課税法人における実効税率は、約30.62%です。
参考:表面税率の計算方法・計算例
参考として、同じ例で表面税率の計算方法も解説します。
表面税率の計算時には、事業税の損金算入について考慮しません。単純に法人の所得に対して課される税金の税率を総和します。したがって表面税率の計算式は以下のとおりです。
表面税率=法人税率+法人税率×地方法人税率+法人税率×法人住民税率+法人事業税率+特別法人事業税率 |
上記の計算式に、実効税率の計算で用いたものと同じ数字を当てはめていきます。
23.2%+23.2%×10.3%+23.2%×10.4%+1.18%+2.6%
≒23.2%+2.389%+2.412%+3.78%
≒31.78%
このように、東京23区の資本金1億超の外形標準課税法人における表面税率は約31.78%です。実効税率とまったく同じ数字を用いていますが、1.16%の違いが生じています。
前述したように、表面税率では事業税の損金算入を考慮している一方で、表面税率は税率を単純に総和したのみです。事業税の損金算入を考慮するか否かによって、小さな数字とはいえ違いが生じます。
計算する目的に合わせて、実効税率と表面税率を正しく使い分ける必要があります。
法人税の実効税率を計算する際の注意点
法人税の実効税率を計算する際、以下の3点に注意が必要です。
・会社の規模や所得額などによって法人税率が異なる
・事業所の所在地で設定されている税率を要確認
・税率が毎年同じとは限らない
注意点についてそれぞれ詳しく解説します。
会社の規模や所得額などによって法人税率が異なる
法人税は国税であり、事業所の所在する自治体による税率の違いはありません。しかし会社の規模や所得額などによって異なる税率が設定されています。
法人税の計算に用いる税率は以下のとおりです。
・資本金1億円以下の普通法人
所得年800万円以下の部分:15%※適用除外事業者は19%
年800万円超の部分:23.2%
資本金1億円超の普通法人:23.2%
・協同組合等
年800万円以下の部分:15%
年800万円超の部分:19%
・公益法人等
公益社団法人・公益財団法人・非営利型法人・その他公益法人等とみなされるもの
:年800円以下の部分15% 年800万円超の部分23.2%
・その他の公益法人等:年800万円以下の部分15% 年800万円超の部分19%
・人格のない社団等
年800万円以下の部分:15%
年800万円超の部分:23.2%
・特定の医療法人
所得年800万円以下の部分:15%※適用除外事業者は19%
年800万円超の部分:19%
また資本金1億円以下の普通法人であっても、大法人による完全支配関係がある場合、資本金1億円超の普通法人と同じ税率を用います。ほかにも細かな要件が存在するため、自社の法人税計算で用いる税率をしっかり確認する必要があります。
上記のように、法人税率は条件によって違いが大きいです。誤った税率を用いて実効税率を計算してしまうと、実態と大きく乖離した数字になってしまうため注意が必要です。
事業所の所在地で設定されている税率を要確認
法人住民税や法人事業税といった地方税は、自治体によって税率が異なるケースがあります。そのため正しい実効税率を計算するためには、自社の事業所が所在する自治体で設定されている税率の確認が必要不可欠です。
「実効税率の計算方法および計算例」では、東京23区の資本金1億超の外形標準課税法人に適用される税率として、以下の数字を紹介しました。
・法人住民税率:10.4%(超過税率)
・法人事業税率:1.18%(外形標準課税法人の所得割 超過税率)
一方で同じ関東地方でも、群馬県多野郡では以下の税率が設定されています。
・法人住民税:合計7.8%
・法人県民税:1.8%(超過税率)
・法人市町村民税:6%
・法人事業税:1%
なお同じ群馬県内でも、前橋市の法人市町村民税の税率は、多野郡とは異なる数字である8.4%です。
同じ税率を用いている自治体も多く存在しますが、今回紹介した例のように、地理的に近くても税率が違うケースも珍しくありません。また群馬県多野郡と群馬県前橋市のように、同じ都道府県内でも税率が異なる自治体も存在します。
地方税の税率を誤ってしまうと、実効税率も正しい数字を算出できません。税率の違いは数%と数字としては決して大きくありませんが、ちょっとした誤りや相違は、経営成績の分析や事業計画への悪影響につながります。
実効税率を正しく計算できるよう、必ず事業所の所在する自治体の税率を確認しましょう。
税率が毎年同じとは限らない
法人の規模や所得金額の大きさによる法人税率の違い、事業所の所在する自治体による税率の違いについて紹介しました。
しかし税率を確認する際に注意したいポイントはほかにも存在します。実効税率の計算に用いる税率を確認する際は、必ず最新の情報をチェックすることが大切です。
国税・地方税ともに、税率が毎年同じとは限りません。たとえば法人税率の場合、平成の30年間で以下のように税率が変わっています。
・平成元年:基本税率40% 中小法人29%
・平成2年:37.5% 中小法人28%
・平成10年:34.5% 中小法人25%
・平成11年:30% 中小法人22%
・平成21年:基本税率据え置き 中小法人特例18%
・平成24年:25.5% 中小法人19% 特例15% 移行中小法人据え置き
・平成27年:23.9%
・平成28年:23.4%
・平成30年:23.2%
また地方税である法人住民税についても、東京23区の資本金1億超の外形標準課税法人に適用される超過税率は以下のように変化していました。
・平成26年9月30日までに開始する事業年度:20.7%
・平成26年10月1日から令和元年9月30日までに開始する事業年度:16.3%
・令和元年10月1日以後に開始する事業年度:10.4%
このように、事業年度によって異なる税率が設定されているケースがあり、年によっては決して小さくない差がみられます。税率が変わったことに気付かず、前年以前と同じ税率を使って実効税率を計算してしまうと、誤った計算結果になってしまう恐れがあります。
事業年度が変わるたびに情報を確認するのはやや手間かもしれませんが、正しく計算するためにも、国税・地方税ともに最新の税率をチェックしましょう。
まとめ
実効税率は、法人の所得金額のうち税額が占める割合がどれぐらいであるかを計算する際に必要です。法人税のほか、地方法人税・法人住民税・法人事業税など、法人の所得に課される各種税金の税率を用いて計算します。
実効税率を正しく計算するためには、正しい計算方法・税率を用いる必要があります。今回紹介したポイントや注意点などを押さえ、実効税率について理解を深めたうえで計算しましょう。
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