法人税の減税を行う理由とは?メリットや現状など押さえるべきポイントを紹介します
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法人税の税率は、常に同じ数値が利用されているわけではありません。特に近年は法改正により、法人税の減税が積極的に行われています。
法人税の減税とは、文字通り法人税率の引き下げです。法人税が小さくなるため、企業に大きなメリットがあるようにみえます。しかし法人税の減税は企業だけでなく、国にとっても大きなメリットのある行為です。
本記事では法人税の減税によるメリットや法人税の減税における背景、押さえておくべき注意点などを解説します。
目次[非表示]
- 1.そもそも:法人税の減税とは
- 2.法人税の減税はなぜ行われる?
- 3.法人税の減税を行うメリット
- 3.1.企業の利益が増える
- 3.2.企業の成長や革新につながる
- 3.3.国内企業の海外流出の歯止め効果が期待できる
- 4.法人税の減税を行うデメリット
- 4.1.法人税の税収減はどこで補う?
- 4.2.法人税の減税でライバルが増える
- 5.法人税の減税が税収増につながる?法人税のパラドックスとは
- 6.日本の法人税は高い?
- 7.法人税の減税と併せて押さえたい注意点
- 7.1.法人実効税率と法人税率の違いについて
- 7.2.中小企業における法人税の特例
- 7.3.課税ベースの見直しが実施されている
- 7.4.毎年最新の税制や税率の確認が必須
- 8.法人税減税の優遇措置
- 8.1.中小企業の税制優遇措置は?
- 8.2.大企業の法人税の減税
- 9.まとめ
- 10.法人税を正しく計算するためには日頃の会計処理が重要
そもそも:法人税の減税とは
法人税の減税とは税制改正のひとつで、法人税率を引き下げる行為です。法人税は段階的な引き下げが行われており、2015年度までは25.5%だったものが、2018年度以降は23.2%となっています。中小企業には特例が適用されており、さらに低い税率が設定されています。
そもそも法人税とは、法人の所得(利益)に対して課される税金です。普通法人や協同組合等のうち、課税対象である所得が発生している法人に納税義務があります。公益法人・公共法人・人格のない社団などは、法人税の課税対象外です。
かつての日本は、諸外国に比べて遥かに高い法人税率が設定されていました。しかし企業のグローバル化や国際的な競争の激化などにより、それまでの高い法人税率が問題視されるようになっていきます。
法人税の段階的な引き下げは、後述するさまざまなメリットの実現につながっていきました。
法人税の減税はなぜ行われる?
法人税の減税と聞くと税収が少なくなるのではという疑問もわきますが、なぜ減税は行われるのでしょうか。法人税の減税はさまざまな観点から考えられています。
まず見込まれるのは経済の成長です。先ほど述べたように、日本はもともと法人税率が高く、40%を超えていた時もありました。減税をすることで利益を増やし、研究開発や雇用の拡大などに繋がれば経済の全体の競争力が上がるでしょう。
また企業の国際競争力を高めることができます。外国企業が日本に入ってくることで、国内経済の活性化が見込まれるからです。
中小企業の支援策としての役割もあります。資金繰りの改善やビジネスの拡大にも期待できるでしょう。
政治的には政府の重要な経済政策の一つとして考えられます。法人税の減税は多くの人に影響があるため、政府に対しての印象を左右するかもしれません。
以下に述べるメリットとデメリットを鑑みながら、バランスをとりつつ実行されています。
法人税の減税を行うメリット
法人税の減税を行う主なメリットは以下の3点です。
- 企業の利益が増える
- 企業の成長や革新につながる
- 国内企業の海外流出の歯止め効果が期待できる
それぞれ詳しく解説します。
企業の利益が増える
法人税の減税によるメリットのひとつとして、企業の利益が増える点が挙げられます。企業が実感しやすい直接的なメリットといえるでしょう。法人税は企業の利益に対して課されるため、税率が下がれば税金として支払う金額も小さくなります。
例として税引前当期純利益が500万円、法人税率25%と20%それぞれで計算・比較をします。
法人税率25%の場合、法人税の額は500万円×25%で125万円です。税引後利益は500万円-125万円=375万円となります。
一方で法人税率20%の場合、法人税の額は500万円×20%で100万円です。税引後利益は500万円-100万円=400万円で、法人税率25%の場合よりも25万円大きくなっています。
今回の例は計算しやすいように設定した仮の数値であり、実際はもう少し複雑な計算が必要です。しかしこのように、法人税率の引き下げにより、企業の手元に残る利益が大きくなります。
企業の成長や革新につながる
法人税の減税は、企業の成長や革新につながることも期待できます。
税率が下がり法人の手元に残る利益が増えることは、資金的余裕が増えると言い換えることができます。すなわち税金以外の部分に充てられる資金が増えるのです。結果として、大きな資金が必要になる新規事業の展開や技術開発が期待できます。
もちろん、法人税の減税によって浮いた資金を、すべての企業が必ずしも新規事業や開発に充てるとは限りません。しかし資金的な余裕がないために、新規事業や技術開発が難しい状況にいる企業が多いのも事実です。
法人税の減税によって資金の余裕が生まれることで、多くの企業が抱える課題の解決につながる可能性があるでしょう。
企業の成長や革新は国際的競争力の強化にもつながるため、企業そのものだけでなく、国にとっても大きなメリットがあります。国が法人税の減税を行う理由のひとつといえます。
国内企業の海外流出の歯止め効果が期待できる
法人税の減税は、国内企業の海外流出の歯止め効果が期待できる行為のひとつです。
法人税は企業の所得に対して課されるものであり、大きな利益を上げる企業ほど納める額も大きくなります。したがって手元になるべく多くの利益を残すために、法人税率の低い国で事業を行おうと考える企業が出てくるのは自然な流れです。
すなわち、法人税率が高い状態とは、優秀な企業が国外に出てしまうリスクが大きいといえるのです。
法人税の減税は、法人税率が低い他国へ優秀な企業が流出することを防ぐ効果が期待できます。日本国内に優秀な企業が多く存在すれば、日本経済の活性化や国際的な競争力の強化などにつながります。
国内企業の海外流出の歯止め効果が期待できるというメリットは、国が法人税の減税を行う大きな理由といえるでしょう。
法人税の減税を行うデメリット
法人税の減税を行うメリットを見てきましたが、一方でやはりデメリットもあります。法人だけの影響では収まらないことも考えられます。どのようなデメリットがあるのか見ていきましょう。
法人税の税収減はどこで補う?
法人税の減税を行うことで長期的に見れば、経済が潤うと考えられますが、足元の税収は減ってしまいます。そのため、減少した税収を何かで補う必要があるでしょう。補うための財源として考えられるものはいくつかあります。
まず国債などの発行です。発行数を増やすことで、国の財源を増やすことができるでしょう。
国の歳出の削減も一つの候補です。さまざまな費用を見直すことで国の支出を削減します。
法人税以外の税を増税してまかなうという考え方があります。消費税が法人税の減収を補っているのではということも根強く言われています。そうなると個人にも大きな影響があると言えるでしょう。
他にも政策減税の縮小などによる法人税の課税ベースが拡大したり、経済成長によって税収が自然に増えたりするのではと考えられていますが、なかなか難しいかもしれません。
どのような形で減税分の財源を確保するとしても、多くの人にさまざまな影響があると考えられるので、適正な減税をしていく必要があります。
法人税の減税でライバルが増える
法人税の減税で優良な国内企業の他国への流出を防げるメリットがありますが、逆に他国から企業が入ってくる可能性も考えられるでしょう。さまざまな企業が国内で切磋琢磨することで経済は活性化するかもしれません。
しかし他国から入ってきた企業は、雇用も他国で行う可能性が高いでしょう。現在はインターネットの普及により、他国に在籍したまま日本国内にある企業で働くことも可能です。そうすると日本で働く人の人件費より安い人件費で海外の人が働くことにより、日本の企業にとっては雇用などの問題が出てきます。また費用の面でも競争が激しくなると考えられます。
法人税の減税が税収増につながる?法人税のパラドックスとは
法人税の減税が行われると、その分国の税収が小さくなると考えるのが自然です。しかし実際のところ、法人税の減税をしたにもかかわらず、税収が増えるという現象が起こったことがあります。この現象を、法人税のパラドックスといいます。
法人税の減税が行われたのに税収が増えた背景として、以下のような理由が考えられています。
- 法人税の減税によって海外企業による投資が増加した
- 法人税の減税と企業の利益率増加の時期が偶然にも一致したため、従来より低い法人税率ながらも大きな法人税額となった
- 法人税の減税と同時に課税所得の算出方法が変更されたため、法人税率自体は下がったものの所得が大きくなり、結果として納税額も大きくなった
ただし、法人税のパラドックスが起こる要因は明確にはわかっていません。あくまでさまざまな国の経験則に基づくものであり、上記の理由もあくまで推測です。
またすべての国で法人税のパラドックスが起きたわけではありません。法人税の減税をした年に税収が増えなかった国もあります。
しかし実際のところ、多くの国で法人税のパラドックスが起きたのも事実です。したがって前の項で紹介したメリットだけでなく、法人税のパラドックスを期待して、法人税の減税を行う国が多く存在します。
各国が競うように法人税率の引き下げを行う状態である以上、法人税の減税は国にとって重要な施策のひとつといえます。
日本の法人税は高い?
日本では平成の間に法人税の減税が段階的に実施されてきました。しかし実際のところ、日本の法人税率は他国と比べて高く、法人税の減税が必要な状態だったのでしょうか。
日本の法人税率について、減税前や他国との比較をしながら解説します。
平成元年、日本の法人税の基本税率は40%、中小法人の年800万円以下の軽減税率でも29%という高さでした。その後以下のように、段階的に法人税の減税が行われていきます。
- 平成2年:37.5% 中小法人28%
- 平成10年:34.5% 中小法人25%
- 平成11年:30% 中小法人22%
- 平成21年:中小法人特例18%
- 平成24年:25.5% 中小法人19% 特例15%
- 平成27年:23.9%
- 平成28年:23.4%
- 平成30年:23.2%
平成元年から平成30年までに、法人税の基本税率は16.8%も引き下げられたのです。
続いて諸外国との比較をします。2021年時点の日本の法人税の実効税率(所得にかかる各種税金を考慮して計算する、実質的な税率)は29.74%です。日本の実効税率と同程度の水準として、ドイツの29.94%が挙げられます。日本より実効税率が高い国として、ポルトガルの31.5%、オーストラリア・メキシコの30%などが挙げられます。
かつて法人税率が40%だったことを考えると、法人税の減税は諸外国の水準に近づくうえで効果的な施策だったといえるでしょう。
一方で、日本よりも法人税の実効税率が低い国は多く存在します。カナダ・フランスは26.5%、イタリアは24%、イギリスは19%という数値です。同じアジアのシンガポールは17%と、日本の実効税率よりはるかに低い数値が設定されています。
法人税の減税を行う前の日本は、諸外国と比べてはるかに高い法人税率だったことがわかります。そして現在も、日本より実効税率が低い国が多く存在する状態です。
法人税の減税と併せて押さえたい注意点
法人税の減税を行う目的やメリットなどは、法人税に関する理解を深めるうえで大切な要素です。そして法人税についてより深く知るためには、法人税の減税と併せて、以下の注意点も押さえる必要があります。
- 法人実効税率と法人税率の違いについて
- 中小企業における法人税の特例
- 課税ベースの見直しが実施されている
- 毎年最新の税制や税率の確認が必須
法人税の注意点について、それぞれ詳しく解説します。
法人実効税率と法人税率の違いについて
手元に最終的に残る税引後利益を計算する際、法人税率を用いた法人税の計算だけでは不十分です。正しい金額を算出するには、法定実効税率を用いて計算する必要があります。
法定実効税率と法人税率それぞれの概要と違いは以下のとおりです。
- 法定実効税率:法人が実質的に負担する税率。法人税のほか、法人事業税・法人住民税など、所得に対して課される税金の税率を用いて計算する
- 法人税率:国税である法人税の税率
法人の所得に対して課される税金は法人税だけではありません。そのため法人税率を用いて法人税を計算するだけでは、法人税以外の税金を考慮できないため、実際の税引後利益から大きく乖離してしまう恐れがあります。
法人税の減税による影響を考えることも大切ですが、実際に発生する税額を正確に計算するためには、法定実効税率を用いる必要があります。
中小企業における法人税の特例
「日本の法人税は高い?」の章でも少し触れていますが、法人税の税率は中小法人とそれ以外で異なります。中小企業の法人税率は特例により、基本税率よりも低い数値が設定されています。
中小法人の特例が適用される法人の条件は以下のとおりです。
- 資本金もしくは出資金の額が1億円以下
- 以下いずれの条件にも該当しない
- ひとつの大規模法人に株式の2分の1以上を所有された法人
- 複数の大規模法人から支配を受けており、合計で株式の3分の2以上を所有された法人
- 常時雇用している従業員の数が1,000人を超えている
中小法人に該当する法人の場合、所得のうち年800万円までの部分は軽減税率、800万円を超える部分に基本税率が課されます。法人の規模や条件によって使用する税率が大きく異なる点に注意が必要です。
課税ベースの見直しが実施されている
法人税の減税により法人税率は引き下げられていますが、税収確保のために課税ベースの見直しも実施されています。たとえ税率が下がっても、課税ベースが増えれば、トータルで発生する税額がそれほど変わらない可能性に注意が必要です。
課税ベースとは法人税の計算の基礎となる課税対象の利益額をさします。売上高やサービス提供などによる収益から、資産の売却などから売上原価や人件費などの経営に必要な費用が控除された金額が法人の利益です。さらにそこから特定の控除項目や税制上の優遇措置によって調整されることもあります。
課税ベースの見直しとして行われている施策のひとつが、欠損金の繰越控除制度の制限です。かつては法人の赤字は最大10年間の繰り越しができ、所得から赤字を控除できました。控除前の所得の80%までは欠損金を控除できたため、大きな所得が発生した場合でも、過去の繰越欠損金があれば支払う法人税が小さくなるケースがあったのです。
しかし税制改正により、過去の欠損金を使って控除できる金額は、現在は各事業年度の所得の50%までとなりました。すなわち大きな欠損金が繰り越されていた場合でも、その年の所得の50%部分には法人税が課されることになったのです。
上記はあくまで大企業に適用されるもので、中小企業は繰越欠損金による控除の上限はありません。しかし大企業のみとはいえ、課税ベースの見直しが行われているのは事実です。
ほかにも租税特別措置法の見直しや外形標準課税の拡大など、課税ベースが大きくなるような施策が複数展開されています。
法人税額が本当に小さくなっているか判断するためには、法人税の減税そのものだけでなく、課税対象となる範囲の確認も必要です。
毎年最新の税制や税率の確認が必須
法人税の額を正しく計算するためには、毎年最新の税制や税率の確認が必要不可欠です。昨年度など過去の税率ではなく、必ず最新情報を確認しましょう。
「日本の法人税は高い?」で紹介したように、法人税率は年によって大きく異なります。また前述したような課税ベースの見直しにより、所得の計算方法が変わる可能性もあります。
過去の税率や古い税制をもとに税金の計算をしてしまうと、誤った結果になってしまうリスクが非常に高いです。法人税は決して小さい額ではないため、誤った金額を算出すると、事業計画や分析などに悪影響を及ぼす恐れがあります。
正確な税額計算を行うためには、最新の税制および税率の確認が大切です。
法人税減税の優遇措置
法人税の減税では現在まで大きく税率が下げられてきました。しかし法人税の減税は税率を下げるだけでなく、さまざまな優遇策も行われています。企業が行う活動や投資に対しての税負担を軽減することで、結果としてさらに減税になるという仕組みです。
企業が賃上げをすれば、それに合わせて税額控除が受けられたり、将来的な価値があると国が考える分野の投資は減税されたりと、さまざまな税制度があります。
中小企業の税制優遇措置は?
日本では多くの企業が中小企業です。赤字になっている会社も多く、利益が出づらい状況になっています。そこで中小企業に特化した税制の優遇措置があります。
例えば設備投資などに対する税額控除です。「中小企業経営強化税制」と「中小企業投資促進税制」の2つがあり、設備投資の費用の全額を経費にしたり、設備投資額の税額控除を受けたりできます。
また取得金額が30万円未満の減価償却資産であれば、全額を即時に全額を経費とできる特例や、研究開発にまつわる税制控除などもあります。
大企業の法人税の減税
大企業は法人税の税率が所得に関わらず決められています。それだけを見ると中小企業に比べて、大企業はあまり法人税の減税がされていないように感じますが、大企業向けの優遇措置もあります。例えば大企業向けに大きく給与を増やした企業や子育て支援に積極的な企業に対する税額控除です。
その他のさまざまな税制の優遇措置は大企業も活用できるものがたくさんあり、それぞれの企業が税額控除などを受けています。
まとめ
法人税の減税は、法人・国ともにさまざまなメリットのある施策です。かつての日本は法人税率として非常に高い数値が設定されていました。その後法人税率の段階的な引き下げにより税率はずいぶん低くなりましたが、それでも日本より実効税率が低い国が多く存在します。
法人税の減税は、企業に小さくない影響を与えます。法人税の額を正しく計算できるよう、法人税率や税制など、最新情報の確認が必要不可欠です。
法人税を正しく計算するためには日頃の会計処理が重要
法人税は事業活動を続けていれば、基本的に納めるべき税金です。法人税を正しく計算するためには日頃から適正な会計処理を行っておくことが重要になってきます。オンラインアシスタント・秘書サービスの「SUPPORT+iA(サポーティア)」では経理などバックオフィス業務をサポートするサービスを数多く提供しているので、ぜひ活用してみてください。
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