赤字決算の場合は法人税を支払わなくていい?
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企業経営をしていると、黒字の時ばかりではなく業績が悪く赤字の時もあります。特に近年は新型コロナウイルス感染症の影響で、予想外の赤字になってしまった企業も多いのではないでしょうか。赤字になるとそれだけでも資金繰りも苦しくなります。加えて税金などの支払があれば負担が大きくなるので、なるべく税金を払いたくないと思うのが普通でしょう。
この記事では、赤字決算の場合、法人税を支払う必要があるのか、また支払うべき税金はあるのか、赤字決算で気をつけるべき点などを説明します。
目次[非表示]
- 1.決算と法人税
- 2.赤字決算とは?
- 3.法人税における赤字決算のメリットとデメリット
- 3.1.赤字決算のメリット
- 3.2.赤字決算のデメリット
- 4.赤字決算時の法人税
- 4.1.赤字の場合、法人税は発生しない
- 4.2.欠損金は繰越可能
- 4.3.欠損金の繰戻しによる還付
- 5.法人にかかる主な税金の種類
- 6.赤字でも発生する税金
- 6.1.消費税の納税
- 6.2.法人住民税の均等割り
- 6.3.一部の法人事業税
- 6.4.企業会計と税務の計算方法の違いにより発生する法人税
- 6.5.中間納付による納税
- 7.法人税で損金に計上できない項目は?
- 8.赤字決算時の対応
- 8.1.必ず確定申告は行い適切な税務処理を行う
- 8.2.粉飾決算は絶対にしてはいけない
- 9.経理・決算処理は「SUPPORT+iA(サポーティア)」に
決算と法人税
法人税とは、法人が稼いだ1年間の所得に対してかかる税金です。決算月は会社によって異なりますが、例えば3月決算の会社なら、4月1日から翌年3月31日の1年間です。
法人税を計算するためには、企業会計と税務会計の違いを認識する必要があります。企業会計上の利益が【収入-費用】で求めるのに対し、法人税を計算するために使う所得は【益金−損金】で計算します。企業会計では費用に含まれても、法人税の計算では損金に計上できない項目があるからです。
決算では、会計上の収益や費用に、法人税法上の税務調整(損金算入・損金不算入など)を行った上で法人税の課税所得が決定します。
赤字決算とは?
決算において、1年間の会社の収益から費用などを引いた結果、収支がマイナスとなった場合は赤字となります。いわゆる「儲け」が出ていない状態です。一方、収益が支出を上回れば黒字といわれます。
先に述べたように、会計上は収入から費用を引いたものが収益となりますが、法人税の課税所得は益金から損金を引き、さらに損金に計上できない費用を調整して計算します。その結果、会計上は赤字でも、税務上では黒字ということも発生します。
税務上でも赤字決算となれば、会社の経営がどうなるのか不安になることもありますが、一概に悪いとは言えません。例えば先行投資により、一時的な赤字となる場合や、将来の黒字を見越しての経営状況という場合もあるからです。
日本ではおよそ6割が赤字経営の企業ですが、すべてが倒産することはありません。それぞれの会社の経営状況によりさまざまです。
また赤字決算であれば法人税の課税所得がありません。税金がかかる所得がないということですが、それでは法人税を納めなくてよいのでしょうか。
法人税における赤字決算のメリットとデメリット
一般的な赤字決算のイメージは良くないものですが、法人税の観点から見ると赤字決算にはメリットとデメリットの両方があります。それぞれを見ていきましょう。
赤字決算のメリット
赤字決算の一番のメリットは、法人税を払う必要がないことでしょう。法人税の課税所得がないため、法人税がかからないからです。財務状況によっては、あえて赤字決算にして法人税を抑えている企業もあります。
また赤字は翌年以降に繰り越すことができます。翌年が黒字であったら相殺できるので、翌年の法人税を抑えられるのです。この制度は上限が10年なので、かなり長い間繰り越すことができるでしょう。その赤字は税務会計上、繰越欠損金として扱います。
さらに前期が黒字であれば、今期の赤字により前期に支払った法人税を還付してもらえる制度があります。青色確定申告をしていて、資本金1億円以下の法人が対象です。この制度によって今期が赤字であれば、前年に支払った法人税を一部、返してもらうことができます。
このように赤字決算であってもいくつかのメリットがあるので、必ずしも悲観する必要はありません。後ほど、これらの制度について詳しく説明していきます。
赤字決算のデメリット
「赤字になれば税金もかからない、繰越ができるなら赤字になってもいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、赤字になれば自己資本として蓄積される利益余剰金を残せなくなります。特に中小企業は自己資本比率が高いほど健全な企業運営ができるため、なるべく資産を残す努力をするべきといえます。
また、金融機関も赤字決算の会社に対する融資に慎重になります。融資を受けられなければ、効果的な投資ができず、事業を存続・拡大することができなくなる可能性もあります。金融機関からの見られ方も意識するべきといえます。
赤字決算時の法人税
赤字決算のメリットでも述べたように、赤字の場合はいくつかの救済になるような制度があります。それらの制度を利用することで、赤字であっても大きな損失は防げるでしょう。
赤字になってしまった時の法人税の取り扱いはどうなるのかを説明します。
赤字の場合、法人税は発生しない
赤字決算の場合、法人税は発生しません。ただし、上述した通り益金・損金の調整において、企業会計上では赤字でも損金として認められない費用もあります。会計上では赤字でも、課税所得がある状態(税務会計上は黒字)なら法人税が発生しますので理解しておく必要があります。
例えば、交際費は企業会計上の費用として認められますが、法人税上では原則損金と認められません。そのため、企業会計上では交際費を計上して赤字でも、法人税の計算で交際費が損金算入できず課税所得が黒字になれば法人税がかかるのです。
欠損金は繰越可能
青色申告で確定申告をした決算年度が赤字の場合、欠損金は10年間繰越できます。ただし、平成30年4月1日以前に開始した事業年度の欠損金は9年間の繰越になりますので、注意が必要です。繰り越しするためには、10年以内に開始した事業年度の欠損金であることや欠損金額が発生した年度後も連続して確定申告書を提出することが条件になります。
なお、欠損金が発生した事業年度に青色申告書で確定申告していれば、その後の事業年度は白色申告で確定申告をしていても、繰越控除の規定が適用されます。
翌年以降に決算が黒字となった場合、前年の赤字を繰り越すことで控除ができますが、損金に算入できる金額はその年の所得金額が限度です。
例えば、繰越欠損金が150万円でその年の所得が100万円の場合、100万円が控除されます。これによりその年の所得は0となるため、法人税を支払わなくてよくなります。また残った50万円は、翌年に繰り越されます。
では赤字決算になる前にも赤字があった場合はどうなるのでしょうか。その場合は古いものから順番に翌年以降の損金に算入され所得から控除できます。古いものからというのが決まりとなっています。
また資本金の額もしくは出資金の額が1億円以上の法人には、繰越控除前の所得に対して特定の率を乗じた金額が控除限度とされ、時期によって異なる割合が適用されます。さらに事業開始年度によっても違います。割合は以下のとおりです。
- 平成24年4月1日から平成27年3月31日開始事業年度:100分の80
- 平成27年4月1日から平成28年3月31日開始事業年度:100分の65
- 平成28年4月1日から平成29年3月31日開始事業年度:100分の60
- 平成29年4月1日から平成30年3月31日開始事業年度:100分の55
- 平成30年4月1日から開始事業年度:100分の50
参照元;国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 」
欠損金の繰戻しによる還付
赤字になってしまった場合、前期及び当期に連続して青色申告をしていれば「欠損金の繰戻しによる還付制度」を利用できます。
適用されるのは普通法人の中小企業等となります。普通法人の中小企業等とは期末の資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの(資本金5憶円以上の大法人の完全子会社等をのぞく)、または資本もしくは出資を有しないもの(保険業法に規定する相互会社および外国相互会社をのぞく)です。
またこの欠損金の繰戻しによる還付制度を利用するには要件があります。
- 還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。
- 欠損事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限までに提出していること。
- 上記「2」の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること。
この要件を満たしていれば、還付制度を利用できますので、ぜひ確認しておきましょう。
例えば、資本金が1億円以下の法人(資本金5億円以上の法人100%子会社などを除く)が赤字になった場合、前期が黒字で法人税を納めているのであれば、前期支払った法人税を還付してもらえます。
還付金額 = 前期法人税額 ×(当期欠損金額/前期所得金額)
では当期の欠損額が前年の所得金額を上回ってしまった場合はどうすればいいでしょうか。この場合についてもきちんと制度が対応しています。使いきれない欠損金は繰越控除が可能です。前年の所得金額を超えた部分の当期欠損金額は、翌年以降の「欠損金の繰越控除制度」を利用しましょう。
例えば今期の欠損額が150万円で、前期の所得金額が100万円だった場合、繰戻し還付請求をする欠損額は前期所得分の100万円です。これにより前期所得の全額を還付請求できます。そして残りの50万円は来期以降、10年以内で繰り越すことにより所得金額から控除することができます。
一方、地方税である法人事業税や法人住民税には欠損金の繰戻し還付制度はありません。しかし手続きを行うことで所得控除を得ることができます。
法人事業税(所得割)は事業税の欠損金として翌期に繰り越し、翌期以降の所得金から控除されます。また法人住民税(法人税割)は、欠損金の繰戻し還付を受けた法人税額を控除対象還付法人税額として翌期に繰り越し、翌期以降の法人税額から控除します。
参照元;国税庁「No.5763 欠損金の繰戻しによる還付 」
法人にかかる主な税金の種類
法人は決算を行い、課税所得に応じた税金を払わなくてはいけません。税金の種類はいろいろとありますが、その中の主な税金は以下のとおりです。
- 法人税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 法人特別事業税
- 消費税および地方消費税
それぞれの税金について見ていきましょう。
法人税
法人税はそれぞれの法人の所得に応じて課せられる国税です。法人の種類や資本金額、年間の所得金額によって変わってきます。
税率は、資本金1億円以下の中小企業であれば、課税所得が年800万円以下の部分は15%、年800万円越の部分は23.2%です。
計算式は「法人税額=課税所得×税率-税額控除額」となっています。
地方法人税
所得に課せられる国税で、国から各自治体に配分する地方交付税の税源となっています。2014年の税制改以西で創設され、地域ごとの税収のばらつきをなくすことが目的です。
計算式は「地方法人税額=法人税額×10.3%(税率)」となっています。
法人住民税
法人住民税は法人を登記している都道府県や市町村に納める地方税です。法人税割と均等割から構成されており、税率は自治体で異なります。
法人税割は法人税額を課税基準としています。一方、均等割は資本金や従業員数などによって、定額で定められている税金です。支払う額は地域によって異なります。資本金1千万円以下、従業員が50人以下の企業であれば、7万円程度です。
この均等割の部分は赤字でも支払わなくてはいけないので注意しましょう。
法人事業税
法人事業税は、法人が登記している都道府県や市町村に対して支払う地方税です。法人の種類や資本金の額、所得額などにより税率が変わります。
特別法人事業税
特別法人事業税は、令和元年10月1日以後に開始する事業年度から法人の事業税が引き下げられたことにより創設された国税です。法人事業税の納税義務がある法人が対象で、法人事業税とあわせて申告・納付します。
消費税及び地方消費税
消費税は、商品やサービスの取引に広く公平に課税され、価格に上乗せされています。税を負担するのは消費者や商品を仕入れる事業者で、納付を行うのは事業者です。消費税は取引段階で重複されない仕組みになっており、地方消費税も同じように課税されます。
課税の基準期間の課税売上高が1千万円を超える事業者が課税事業者となります。
赤字でも発生する税金
ここまでの説明で「赤字なら税金は不要」と思われるかもしれませんが、赤字決算でも申告・納税義務のある税金も発生するので注意が必要です。
消費税の納税
法人は、法人税だけではなくさまざまな税金が課税されます。例えば、法人の消費税の納付はあくまで消費者の代行なので、赤字でも関係なく納付が必要です。
ただし、消費税は「免税事業者」となれば納税の義務はなくなります。具体的には、年商1,000万円以下の法人は免税事業者となり消費税の納税をする必要はありません。
法人住民税の均等割り
赤字関係なく法人住民税の支払いも必要です。
法人住民税は、法人税割と均等割で構成されています。法人税割の計算式は【法人税 × 市町村民税の税率 + 法人税 × 道府民税の税率】です。法人税割については、赤字の場合は法人税が発生しないので支払いはありませんが、均等割りの部分については赤字関係なく発生します。均等割りの部分は法人の規模によって課されるからです。
均等割りの金額は、各自治体、会社の規模(資本金の額・従業員の人数)により異なりますので、税金を納める自治体のホームページでご確認ください。
一部の法人事業税
法人事業税は、【所得×法人事業税割合】で算出します。そのため、赤字の場合には発生しませんが、資本金が1億円を超える法人は「外形課税標準法人」となり「付加価値割」「資本割」が課税されるため、赤字であったとしても法人事業税の支払いが必要になるケースもあります。
企業会計と税務の計算方法の違いにより発生する法人税
企業会計上の利益は、【収入-費用】で計算します。一方、法人税を計算する所得の求め方は【益金−損金】です。会計上では費用の扱いになるのにも関わらず、税務上の計算では損金にならないことを「損金不算入」といいます。
企業会計では費用に含まれて赤字になったとしても、法人税の計算で損金として扱えず所得が黒字となれば法人税が発生します。損益不算入になる項目としては、役員報酬・交際費・寄付金などがありますので注意しましょう。
中間納付による納税
法人税は中間納付が必要です。予定申告による中間納付は前期基準額(前期法人税の約半分)を支払います。前期基準額の計算式は下記の通りです。
前期基準額 = 前事業年度の確定法人税額 / 前事業年度の月数×6カ月
前期が黒字で予定申告による中間納付をする場合、今期が赤字でも法人税の支払いが必要です。ただし、中間納税で払いすぎた法人税は確定申告時に還付金として戻ってきます。
また、事業年度開始から6か月たった時点で仮決算を行うことで中間納付も可能です。この方法は、赤字により前期法人税の約半分を支払うのが難しい場合に有効です。
法人税で損金に計上できない項目は?
決算時に会計上赤字であれば税務上も赤字とは限りません。会計上は費用となるもののうち、税務上では費用にならないものがあるからです。これが上で述べた損金不算入で、その項目について詳しく見ていきましょう。
役員報酬
取締役以上の役員の報酬は基本的に損金不算入です。損金算入が可能な役員報酬は条件があります。
■定額同額給与
事業年度内は1か月ごとに同額が支払われるもの
■事前確定届出給与
事前に税務署に「支給金額」や「支給時期」を届け出したもの
■業績連動給与
利益や株価など客観的な指標に連動して支給されるもの
交際費等
交際費等とは交際費、接待費、機密費その他の費用のことです。法人が得意先や仕入れ先など関係者に対する接待などに使う費用ですが、これらも原則として損金不算入です。ただ、資本金や出資金が1億円以下の法人については一定額が控除されます。
寄付金
寄付金は損金算入できる額の上限が決められています。ただし、国や地方公共団体への寄付金は原則として、支出した全額が損金の額に算入されます。
減価償却超過額
減価償却費のうち償却限度額を超えた部分を償却超過額といい、償却超過額は損金不算入となります。税務上の損金の額に算入される償却費は、会計上の償却費として計上した費用と法人税法で定めた償却限度額の中で少ない方とするからです。
税金
税金も以下のものは損金不算入となります。
- 法人税
- 地方法人税
- 延滞税
- 罰金等
- 所得税・復興特別所得税
赤字決算時の対応
最後に赤字決算時の対応について説明します。
必ず確定申告は行い適切な税務処理を行う
赤字になると、法人税の納付が必要ないので「確定申告は不要」と思われるかもしれませんが、欠損金の繰越控除を利用したい場合には、青色申告で確定申告を必ず行いましょう。欠損金の繰越をすれば、翌期以降黒字転換したとしても、欠損金の範囲内であれば法人税の納税が免除されます。
粉飾決算は絶対にしてはいけない
決算が赤字になると、銀行からの評価が気になり、なんとか黒字に見せようと考えることもあるでしょう。虚偽の決算報告をすると、「粉飾決算」になります。過去には、東芝やオリンパスのような大企業でさえも粉飾決算を行っています。粉飾決算にはデメリットしかありません。違法行為として罰せられるだけではなく、社会的信用をなくし、経営どころではなくなってしまいます。そのため、赤字を隠したくても粉飾決算だけはしないようにしましょう。
経理・決算処理は「SUPPORT+iA(サポーティア)」に
赤字決算なら法人税もかかりませんが、適切な税務処理を行えば、メリットにつながる場合もあります。
また、赤字になれば税金の負担がなくなるため、「赤字でも問題ない」と考える方もいるかもしれませんが、金融機関からの評価が落ちて融資を受けられないリスクがあります。そのため、基本的には黒字を目指すのが企業運営として健全です。
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